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忖度・権力集中…日大が統治不全に陥るまで 現職理事が語る内実

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聞き手・氏岡真弓、三浦淳
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 理事長らが逮捕される事態に至った日本大学には、どんな構造的な問題があったのか。現職の理事の一人で、事件前から水面下で再建策の検討を重ねてきた文理学部長の紅野謙介教授(65)が、朝日新聞の取材に応じた。

どっしり座り腕組みしたままの前理事長

 一連の事件で大学として記者会見を開いたのは今回が初めてです。会見して説明責任を果たすよう求める声が広がるなかで、9月の背任容疑での強制捜査の後、なぜ会見を開かなかったのか。それは田中英寿前理事長=11月29日に脱税容疑で逮捕、12月1日に理事長辞任、3日に理事職解任=の存在が大きかったと思います。

 前理事長は、黙ってそこにいるだけで存在感があった。会議室に入ってくると、円卓についていた理事全員がさっと起立する。もともと会議は前理事長の意向を忖度(そんたく)して発言しにくい空気で、田中氏が指名して理事になった人が「異議なし」という程度。しんとして議論にならない。

 私は2019年1月に理事になって初めて様子を目の当たりにし、権力が前理事長に集中しているのを実感しました。

 大学が家宅捜索を受けた9月以降も、前理事長はほぼすべての理事会に出席していました。お相撲さんのような雰囲気でどっしりと座り、腕組みをしたまま事件について何も釈明しない。一言もしゃべりません。危機対策本部が調べているからとのことで、私も含めて、出席者はだれも批判しなかった。会見するかどうかは議論にもならなかったのが実情です。

 逮捕の1週間ほど前、私は「緊急提言案」を書きました。理事らの辞任と報酬の返上、理事長や常務理事の辞任、(日大関連の各種事業を手がける企業で、背任事件の舞台となった)「日本大学事業部」の縮小・廃止、監事機能の強化、理事会の暴走を止めるチェック機関の設立などを自主的に打ち出すことが柱で、加藤直人学長や副学長らに個人的に配りました。

 ただ、自分の学部長の任期中(22年1月まで)に現状を変えるのは無理だろう、しかし提言を文書にすることに一定の意義はあると思いました。結果的にはすぐ脱税事件による逮捕となり、あまり役には立ちませんでしたが。

 前理事長が不在になって、学内、理事会の空気が大きく変わりました。

 逮捕を受けて開かれた12月1日の臨時理事会は、ようやく発言が飛び交う会議になりました。理事長の辞任に伴う新理事長の人事は「急にここで決めるのか」「トップに不祥事があっても副社長らで回していく企業もある」などと異論が出ましたが、加藤学長が理事長を兼任するなら、と承認された。続いて、理事全員が3日には辞表を出し、「新理事長預かり」とすることが決まりました。

 ところが12月3日に開かれた定例理事会では、辞表を出していない理事が数人いることが分かりました。卒業生らで構成される組織で、前理事長が会長を務める「校友会」出身の理事たちからは「出身母体と相談する時間がほしい」との声が出ました。それに対し、校友会が残って大学が滅んだらどうしようもないとの思いから批判の声があがり、その場で辞表を出すことが再確認されました。

 3日の理事会では、前理事長の理事職解任が提案されました。1日の理事長辞任の際は本人の辞任の申し出を了承する形をとりましたが、「解任して大学の意思を示すべきだ」との批判も浴びました。

前理事長との家族のような絆を優先、反対した理事

 しかし1日に理事長解任を提…

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    遠藤乾
    (東京大学大学院法学政治学研究科教授)
    2021年12月12日3時30分 投稿
    【視点】

     日大限りのことかどうか。この件を通じて議論すべきことの一つに、政府や文科省が進めてきた大学トップの権限強化の流れの是非がある。  田中氏が理事長に就任したのは2008年。すでに1995 年の中教審答申「大学運営の円滑化について」では学長