戦法はすたれても…人を残したノムさん 思い出の神宮でしのぶ会

稲崎航一
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 南海、ヤクルト、阪神、楽天で指揮を執り、昨年2月11日に84歳で死去した故野村克也さんをしのぶ会が11日、神宮球場で行われた。

 投手のクイックモーション。打者がスイングし始めた瞬間に三塁走者が走り出す「ギャンブルスタート」。投手が捕手のサインに首を振ったら、牽制(けんせい)はない。何度も首を振れば打者に集中しているから、盗塁しやすい……。

 野村克也監督が編み出したとされる戦法やセオリーは、いくつもある。現代野球ではスポーツマンシップにもとるかもしれない、「ささやき戦術」というのもあった。

 「それらはもう、通用しなくなっているんです」。野村監督の薫陶を受け、名ヘッドコーチとして知られた橋上秀樹さんが言った。どういうことか。

 橋上さんを始め、野村さんの教えを受けた人が球界に広く散らばったからだ。この日、指導者となった教え子たちや関係者約600人が神宮球場に集った。「野村の考え」が敵味方に浸透し、首を振って牽制する投手も増えた。

 「財を残すは下、仕事を残すは中、人を残すは上」。球場の大型ビジョンで流れた野村さんの名言を見て、思い返す。春先の矢野燿大阪神の快進撃。8月、稲葉篤紀ジャパンの金メダルに沸いた。

 8月の甲子園を制した智弁和歌山高の中谷仁監督も、楽天時代に「最低の打者や」とこき下ろされながら、野村さんの指導に必死についていった。

 秋には日本ハム新庄剛志監督の就任、高津臣吾ヤクルトが日本一で締めくくった。

 戦法はそのまま使えなくても、思想は滅びない。野村監督は「弱者が強者を倒すには知恵と工夫だ」と言った。弔辞を読んだ江本孟紀さんは阪神時代、巨人・王貞治さんの一本足打法のタイミングを外そうと投球フォームを微妙にずらすなど工夫した結果、通算打率1割台に抑えた。

 「王さんを抑える方法は直接は教わっていないけど、考えることを教わった。これが野村さんのシンキング・ベースボール」。そう言ってしのんだ。

 2021年は、野村遺産の年だった。(稲崎航一)