キャバレー王は希代の目利き ドラマ秘める女に恋したコレクター人生

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田中ゑれ奈
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 昭和のキャバレー王は、希代の目利きでもあった。有名無名おかまいなし、ひたすら自分の審美眼に忠実に集められた作品たち。一点一点たどれば、ご自慢の絵を眺めるニコニコ顔が目に浮かぶ。

 なんとしても欲しかった「心中もの」の魅力に、絵の中に見つけた一粒の涙に寄せる思い。美術をとことん愛したキャバレー王の「好きなタイプ」とは。

 展覧会を監修した美術史家・山下裕二氏をして「間違いなく戦後最高のコレクター」と言わしめるその人の名は、福富太郎(1931~2018)。全国に44店舗のキャバレーを展開した実業家で、テレビのワイドショーやラジオでも活躍した。

 福富のコレクション遍歴は、鏑木清方(かぶらききよかた)から始まる。父の遺品だった清方の掛け軸空襲で失った経験などが原点となり、キャバレー「銀座ハリウッド」をオープンした30代前半から本格的に収集を始めた。好きな女性のタイプを聞かれて「鏑木清方先生えがく女のような」と答える熱狂的ファンとなり、最晩年の画家本人を訪ねて交遊を深めた。

 なかでも歌舞伎の心中ものが題材の「薄雪(うすゆき)」は、自分が死んだら棺に入れてほしいと口走るほどのお気に入り。入院先の病室に飾った時は、縁起が悪いと医師らの不興を買った。発表当時は賛否両論で、画家自身も失敗作とみなした異色作「妖魚」は、今や清方研究に欠かせない重要作として数々の展覧会に貸し出されている。

 やがて清方の先達や同輩、後輩へと、現代ではほぼ無名の画家も含めて、福富の収集の手は広がっていく。富岡永洗(えいせん)「傘美人」のビロード襟の着物に指輪をあわせた装いや、島崎柳塢(りゅうう)「春日少女」の洋画的な日本画表現には、先進的な明治の気風に対する福富の共感が垣間見える。

 「その女性の生活感が伝わってくる、ドラマのある女性像」が好きだと語ったのは、さまざまな背景を持つ女性たちと共に歩んできたキャバレー王ゆえか。伊藤小坡(しょうは)「つづきもの」は朝の支度の途中なのか、歯ブラシと手ぬぐいを放っぽり出して新聞小説に熱中する女性の人柄やライフスタイルまで生き生きと想像させる。一方、池田輝方「お夏狂乱」や松本華羊(かよう)「殉教(伴天連お春)」のヒロインのほうけたような表情には、悲劇をのぞき見る後ろ暗い楽しみもある。

 「なんとしても入手しようと…

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