第1回零下の森で8日間「ここで死ぬんだ」 警備の目盗み国境を越えたが…
13世紀の古城が残るベラルーシ西部の街フロドナからポーランド国境までは、20キロほどだ。国境周辺で何が起きているのかを取材しようと私が乗ったタクシーは、国境のはるか手前で警察官に止められた。付近はかなり広い範囲にわたって、関係者以外の立ち入りが禁止されているようだった。
「国境警備隊の許可を受けています」。そう言って外務省発行の臨時記者証を差し出すと、警察官は少し離れて、誰かと無線で話し始めた。
私の名前と記者証の番号を伝える声が聞こえた。戻ってきた警察官は「どうぞ」といって通過を認めた。
2021年の夏以降、ベラルーシからポーランドへと越境する移民や難民が急増しました。緊迫する国境で何が起きていたのか。現地からの報告と翻弄(ほんろう)された人々の証言を伝えます。
「欧州最後の独裁者」と呼ばれるアレクサンドル・ルカシェンコ大統領が27年も権力を握るベラルーシに、イラクやシリア、アフガニスタンなどから欧州を目指す移民・難民の人々が集まり始めたのは今年6月末だった。
当初、フロドナの北方のリトアニア国境に向かった人々の波は、8月ごろからポーランド側へと流れが変わった。11月初旬には国境の検問所付近で、放水車や催涙ガスを使って越境を阻止しようとするポーランド国境警備隊や同国の警官隊と衝突する事態になっていた。
私が現地に着いたのは11月20日。立ち往生した数千人の人々を収容するため、ベラルーシ当局が国境近くに避難所を開設して「人道援助」を始めたという国営通信社の報道が流れた2日後だった。
「外に出てこられなくなるぞ」 国営テレビ局の忠告
めざす物流センターは、国境のベラルーシ側検問所から100メートルほど手前にあった。建物の所在地名から「ブルズギ運輸物流センター」と名付けられている。ふだんは大型トラックが出入りし、貨物を積み替えるための近代的な大型保管庫だ。
「そのまま入ったら外に出てこられなくなるぞ」
近づこうとすると、後ろから声をかけられた。先に到着していたベラルーシ国営テレビのスタッフだった。「君は難民と区別がつかないから」
たしかに、動きやすい防寒着にカメラが入ったリュックを背負った私の外見は、国境から国境へと移動する移民・難民の人々とあまり変わらない。よく見ると、避難所となった物流センターの周囲は鉄柵で囲まれ、兵士や警察官が外を固めている。
「避難所」とはいえ、人々は自由に出歩くのを禁止されているのだ。男性スタッフは「必ず返してくれよ」と言って報道陣用のビブスを私に渡し、かぶるように言った。
センターの裏口から中に入って驚いた。
広大な倉庫のフロアに縦は青…