第7回「志ん朝の代演やって金取れるの俺だけ」 談志の愛に鳥肌が立った

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聞き手・井上秀樹
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 今年、没後20年の古今亭志ん朝と没後10年の立川談志。生前、志ん朝が入院したとき、談志が代演をしました。そのときの家元と志ん朝ファンのやりとりに、浜美雪さんは「鳥肌が立った」そうです。伝説の高座でかけた演目とは。

ライター・浜美雪さん

 ――志ん朝の特長は。

 志ん朝落語は音楽的であるって、みなさんそう感じているわけです。音楽って入りやすいじゃないですか。だから入門する人とか、初めて楽しむ人には、絶対外していただきたくない落語家の筆頭ですね。志ん朝さんを聴いて落語嫌いになる人は、まずいないですし。それから志ん朝学んどいて、他の師匠に入門したとしても、絶対にマイナスにはならない、そういう物を持ってるんですよ。

 志ん朝落語って解説がないんです。ただバーンと聞けば、パッケージとして、「あっ落語ってこういう面白いもんだな」って非常にわかりやすく入ってくる、落語の良さを教えてくれる。プロ向けでもあり、落語を知らない人でもいい教科書になるんじゃないか。それもビジュアルがいい。

 もう一つ大事なのは、お育ちになった家族の、(母の)おりんさんとか、(父の古今亭)志ん生師匠とかの、生の会話が音源で残ってますけども、普通の会話が落語の間でありリズムなんですよ。日常でしゃべってる言葉と、落語の登場人物がしゃべってる言葉に、ほとんどバリアーがないんです。だから、志ん朝師匠がインタビューでお話ししたり、お料理屋さんに行って大将とお話ししたりしても、全部落語に聞こえるんですよ。間もリズムも。全員が気持ちよくなるんですね、あれが志ん朝マジックじゃないかな。

 それと、ご自身もおっしゃってましたけど、たとえば「酢豆腐」に出てくる気取った若旦那、「ああいう人だって普通に私の周りにいますもん」。だから落語の中はファンタジーの世界じゃなくて普通にあることだよ、っていうことが前提としてあるわけです。それで私たちも、何も難しいこと考えなくてもすーっとそのなかで入っていけて、楽しめるんじゃないかな。才能豊かで面白い方はいまたくさんいますけど、古典落語の世界が現実と違和感なくそのままで暮らしていた人は、志ん朝師匠が最後なんじゃないかな。

落語界でライバルと目された没後20年の古今亭志ん朝と、没後10年の立川談志は、ともに若手の頃から人気を博し、いまでも本やCDが売れています。根強いファンのいる魅力は何か。ゆかりの人々に聞きました。

 ――リズムは意識していたのでしょうか。

 たぶん、志ん朝さんてドラム…

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