97歳店主、コーヒー豆にこだわり半世紀 「生きとる間はずっと」

大滝哲彰
[PR]

 津駅東口のすぐ近く、ひっそりとたたずむコーヒー豆のひき売り店がある。酸味が全くないコーヒー豆を販売する。店主は97歳の男性だ。

 店の引き戸を開けると、香ばしいコーヒー豆のにおいに包まれる。店の名前は「高野コーヒー」。酸味がなく口当たりがなめらかな「くろいり珈琲」が、常連客に愛され続けている。

 「おじいちゃん今日も元気だねえ」

 「ありがとう。おかげさまでね」

 店内で常連客と談笑していたのは、店主の高野博さんだ。97歳。いまも現役でコーヒー豆を売り続けている。「ここまで元気にやれて幸せだよ」と笑顔を見せた。

     ◇

 戦前、長野県で生まれ、津の紡績会社に勤めていた。まもなく、衛生兵として中国・重慶近くに派遣された。1年後に終戦を迎えたが、その後1年半は捕虜として中国で暮らした。

 津に戻ると、勤めていた会社は津空襲で丸焼けになっていた。知人とミシンの組み立て工場を始めたが、商売は次第に右肩下がりとなった。

 「このままでは食っていけない」。そんな危機感から、小さなカレー店を開いた。「いろいろやると大変になるから」と、メニューはカレーライス1種類のみ。当時の津にはカレーの専門店が少なく、店は大いに繁盛した。

 1966年、カレー店の隣に、現在のコーヒー豆ひき売り店の前身となる喫茶店をオープンした。

 「コーヒーの酸味が苦手でね。酸味のないコーヒーを出したかった」

 知り合いの焙煎(ばいせん)士に相談して、独自の豆を開発してもらった。会社員らの出勤前の平日朝や昼休みの時間になると、店は常連客でにぎわった。そんな店内の風景を見ている時間が楽しかった。

 2013年、現在の津駅近くに移転。コーヒー豆のひき売りに特化し、喫茶店は閉めた。現在は娘と一緒に店に立っている。

 毎朝9時45分に店を開け、店前の掃き掃除から始まる。午前中は娘に店を任せて、散歩したり新聞を読んだり。午後3時ごろから店に立つ。

 喫茶店時代からの付き合いの常連客もいる。そんな常連客と顔を合わせて談笑するのが何よりの楽しみだ。だからこそ、店が休みの日は「退屈でしょうがない」と笑う。

 「いつまで店に立ちたいですか」。こう質問すると、すぐに答えてくれた。

 「生きとる間はずっとだよ」(大滝哲彰)