ヒグマ駆除で銃許可取り消し「著しく妥当性欠く」 札幌地裁
北海道砂川市で2018年8月、市の要請でヒグマをライフル銃で撃った際、建物に向けて発射したとの理由で道公安委員会に銃所持許可を取り消されたのは違法だとして、道猟友会砂川支部長の池上治男さん(72)が道を相手取り処分の取り消しを求めた訴訟の判決が17日、札幌地裁であった。広瀬孝裁判長は「著しく妥当性を欠くもので違法だ」として公安委の処分を取り消した。
判決などによると、池上さんはヒグマ出現の知らせを受けた砂川市の要請を受けて現場に出動し、市職員と警察官も赴いた。市職員から駆除を依頼され、ライフル銃を1発発射してヒグマに命中させた。
その後、砂川署(現・滝川署)から銃刀法違反などの疑いで書類送検されたが、不起訴処分となった。しかし、道公安委は19年4月、銃弾が到達する可能性のある場所に建物があったとして銃刀法違反と認定し、銃所持の許可を取り消した。
判決は、ヒグマの背後には高さ約8メートルの土手があり、池上さんが発射した位置から土手の上の建物はほとんど見えなかったと指摘。さらに池上さんとヒグマとの距離が15メートル程度で、建物に当たる可能性があったとする道側の主張は「極めて観念的なものに過ぎない」と断じた。
その上で、現場にいた警察官は特段、発射を制止したり、発射しないよう警告したりすることはせず、ヒグマの駆除を前提に近くの住民を避難誘導していたと指摘。地域住民が駆除に感謝していることにも触れ、「経緯や状況などを考慮すると、取り消し処分は裁量権の乱用と言わざるを得ない」と結論づけた。
判決後に会見した池上さんは「裁判長が私の気持ちを全面的に代弁してくれた」と語った。一連の処分を受けて、猟友会砂川支部では駆除を自粛するムードが広がり、これまで銃によるヒグマ駆除は行われていないという。「自治体や警察と連携して地域のために活動してきたのに、不当に処分を受けた。全国の猟友会の今後にも関わると思って裁判を起こした」と話した。
原告代理人の中村憲昭弁護士は「公共の利益や地域住民の反応にも触れ、精密に判断してくれた。今後の同種訴訟の先例となってほしい」と判決を評価した。
地元にも安心の声が広がっている。
同支部会員の大櫃守人さん(73)は「当然の判決だが、ホッとした。池上さんは一、二を争うほど経験豊富な会員なので、早く復帰してほしい」。ヒグマ駆除を担当する砂川市農政課の野田勉課長は「住宅に撃ったという判断による行政処分はおかしいと思っていたので、認められてよかった。池上さんにはこの2年間、ご心労をおかけして申し訳なかった」と話した。
公安委の事務を担当する道警監察官室は「判決内容を精査し、今後の対応を検討する」との談話を出した。
道自然環境課によると、今年度のヒグマによる死傷者は12人(うち死者4人)。統計開始以来、過去最多となっている。(平岡春人、川村さくら)
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〈都道府県公安委員会〉 都道府県知事の所轄の下に置かれ、警察を管理する機関。委員は知事が議会の同意を得て任命する。警視正以上の警察官の任免などに関する勧告のほか、運転免許の取り消し・停止などの行政処分も行う。銃砲行政では所持の許可や取り消しなどを行う。
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