「愛国者」だけの選挙戦に現れた「自称民主派」 しらけムードの香港

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香港=奥寺淳
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 香港で19日に立法会(議会、定数90)選挙が行われる。しかし、中国政府が「愛国者」しか立候補を認めない選挙制度に変えたため、民主派政党は候補者を一人も擁立しなかった。そこに現れたのが「自称民主派」の候補たちだ。「議会に多様な声を届けたい」と訴えるが、背景に親中派の影がちらつく。選挙戦はしらけムードが漂っている。

 「立法会から異なる意見を言う人がいなくなってもいいのですか」

 選挙戦も終盤にさしかかった13日、新界東北選挙区から立候補した企業顧問の黄成智氏(64)は住宅街の駅前で声を上げた。そばに立てかけた看板には「0・5歩、民主の道を」との標語を掲げている。だが、市民の反応は薄かった。

 今回の立法会選はもともと昨年9月に予定され、民主派が初めて過半数を獲得する可能性もあった。

 民主派は前回2016年の選挙では、全70議席(当時)のうち30議席を獲得。さらに19年に逃亡犯条例改正案をめぐる反政府デモで民主派の支持が高まった。同年11月の区議会選では民主派が80%以上の議席を獲得して圧勝していた。その流れを引き継げば、過半数を意味する「35+」の目標達成も夢物語ではなかった。

 危機感を持った中国政府は立法会選を延期したうえ、実質的に民主派を排除する選挙制度に変更。親中派しか当選できない枠を大幅に増やし、民主派が強い直接選挙枠を35から20に削減した。さらに事前審査で、中国共産党の統治下の体制を認めた「愛国者」でないと立候補が取り消される仕組みにした。このため、民主派政党は「選挙に正義はない」(民主党)として候補者を立てなかった。

 その結果、出馬表明は親中派だけに。「(親中派)一色にしない」と言ってきた中国と香港両政府は体面が保てなくなり、香港メディアによると、水面下で親中派が民主派各党に「立候補を」と促してきた。

 この状況下で「民主派」を名乗り始めたのが、これまで政府側とも協力姿勢を示す「中間派」の人たち。事前審査で立候補が認められたのは親中派約140人と、政権側から推薦を得た「民主派」や「独立派」などの十数人だった。

 黄さんも自称「民主派」の一人。元民主党員で、かつて同党選出の立法会議員を務めたこともあったが、香港政府トップの行政長官を選ぶ制度をめぐり、中国側が民主派の立候補を事実上排除する案を示した際に賛成にまわり、同党から除籍。それ以降は「中間派」を名乗ってきたが、5回の選挙で落選し続けてきた。19年に民主派が議席の8割以上を獲得して圧勝した区議会選挙でも、得票率は2・3%にとどまり、供託金が没収された。

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    倉田明子
    (東京外国語大学総合国際学研究院准教授)
    2021年12月19日9時31分 投稿
    【視点】

    親中派しか勝てない制度を作ったのですから、結果の大勢は目に見えています。それでも今回の選挙が少しおもしろかったのは、中国政府が西側への体面上「多様な選挙」を演出しなければならなかったことかもしれません。投票率が低すぎてはいけない、でも白票ば

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