自民、衆院10増10減に異論続々 「公認もめる」透ける身内の都合

自民

菅原普
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 衆院選の「一票の格差」を是正する定数見直しで、政府が次の衆院選に向けて進める「10増10減」に自民党内から異論が噴き出している。地方の議員が減ることや、党内の公認争いの懸念があるためで、影響を減らすために「3増3減」にとどめる独自案も浮上する。唐突に入れられた横やりに、政府・与党内で当惑する声も上がる。

 「都市部の議員が増えて地方が減る。それでいいわけないだろうという意見が圧倒的だった」。16日にあった自民党の選挙制度調査会の後、逢沢一郎調査会長は記者団にこう説明した。

 この日の調査会では、15都県で「10増10減」とする区割り改定に次々と不満がぶつけられた。最近、自民党内で唐突に語られ出した「3増3減」の検討を求める声も出た。ただ、「10増10減」は長い議論の末にたどり着いた定数配分で、政府はすでに具体的な区割り作業を進めている。これを主導したのは、そもそも自民、公明両党だった。

 最高裁は2009年以降にあった3回の衆院選で、一票の格差を「違憲状態」と判断し、国会に是正を求めている。16年には衆院選挙制度改革の改正関連法が成立。22年以降の衆院選で、人口比を反映しやすい配分方法の「アダムズ方式」を適用することが決まった。

 「10増10減」は、今年11月に出た20年の国勢調査の確定値に基づき、アダムズ方式で算出された。政府の「衆院議員選挙区画定審議会」(区割り審)は区割り改定案のとりまとめに向け、全国の知事に意見を聞くことを確認。来年6月までに案を首相に勧告することになっている。

 今回の自民の調査会では、多くの議員がこれに「ノー」を突きつけた形になる。

 自民は野党に比べ、伝統的に地方の基盤が厚い。アダムズ方式では、人口が減少する県で定数が減りやすく、かねて「地方の声が国政に届かなくなる」との声はあった。さらに、選挙区の減少で生じる公認争いが、具体的な形で見え始めていることが、不満や不安を急激に膨らませている。

 例えば、定数が1減る山口県は現在、安倍晋三元首相、林芳正外相、岸信夫防衛相らがいる。岡山県も1減だが、逢沢氏や加藤勝信官房長官などベテランが多く、調整は難航が予想される。選挙区が減る県の衆院ベテランは「もめるに決まっている。山口などは、どう調整するのか想像もつかない」と漏らす。

 そうした中で出てきたのが「3増3減」案だ。東京都を3増、長崎、愛媛、新潟各県をそれぞれ1減とする内容で、選挙制度に精通する細田博之衆院議長の発案とされている。

 ただ、実現性は不透明だ。議員の「自己都合」も透けるなかで、土壇場で法律を変更するなどして定数配分を変えることに、国民の理解が得られるのか。

 自民の衆院中堅は「与党が自らに有利になるように選挙区を引き直す『ゲリマンダー』だ。絶対に良くない」と、「10増10減」の見直し論に眉をひそめる。公明党石井啓一幹事長は17日の記者会見で、「淡々と法律にもとづいて今後の作業を進めるべきだ」と語った。

 政府内にも困惑が広がる。ある省の幹部は「仮に3増3減にしたら、最高裁がどう判断するか。そもそも3増3減で、一票の格差をどれくらい是正できるのか。問題は多い」と話す。(菅原普)

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