自閉症のアーティスト、高津区にギャラリー開設

土屋香乃子
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 【神奈川】川崎市を拠点に活動する自閉症のアーティスト、GAKUさん(20)の作品を展示するギャラリーが、高津区にオープンした。言葉による意思疎通が苦手なGAKUさんだが、約4年前に「絵」という表現手段を手にし、今では海外で個展を開くまでになった。家族やスタッフの支えもあり、精力的に創作活動を続けている。

 真っ赤な床と白い壁のギャラリーには、ネオンピンクや緑、青などでくっきりと円や模様を描いた作品が並ぶ。笑顔の動物を描いた作品も多い。部屋全体が、GAKUさんが持つ明るく若々しいエネルギーに満ちている。父の佐藤典雅さん(50)は「がっちゃんのハッピーな人柄が表れている」と話す。

 GAKUさん=本名・佐藤楽音(がくと)さん=は3歳の頃、知的障害を伴う重度の自閉症と診断された。言葉によるコミュニケーションは苦手で、言語能力は6歳程度。療育のために4歳から家族で米・ロサンゼルスに暮らし、14歳で帰国。今は川崎市宮前区で暮らす。

 絵を描き始めたのは、ある絵との出会いがきっかけだ。典雅さんが設立した発達障害・自閉症児のための福祉施設「アイム」が運営する通信制サポート校(現在は休校中)の遠足で2018年3月、川崎市岡本太郎美術館を訪れた。

 注意欠陥・多動性障害ADHD)の症状で1カ所にとどまることが出来ず、常に動き回っていたGAKUさんが、岡本太郎の作品「傷ましき腕」の前でぴたりと足を止め、数分間見入ったという。

 「GAKU, paint(絵を描く)!」。GAKUさんは翌朝、教室で突然こう言い出した。

 画材の用意がなく、スタッフがトレーシングペーパーとアクリルの絵の具を渡すと、黒い背景に緑や青、赤などの丸を描き込んだ絵を完成させた。美術館に同行したスタッフの古田ココさんは「『僕はこんなに色々なものを感じ、吸収しているんだ』と伝えるツールを手にしたんだと思う」と振り返る。

 以来、GAKUさんは毎日のように絵を描くようになった。約4年で制作したのは約700点。いまはギャラリーにほど近い雑居ビル内にあるアトリエで活動を続けている。

 典雅さんはGAKUさんの可能性を信じ、画材の購入から個展を開催するギャラリー探しまで、サポートを続けてきた。「苦手な部分をつついて平均値に近づけるのではなく、得意なところを伸ばすことに集中した。本人の『好き』に勝るものはない」。思春期に入ってから不安やいら立ちの表情を見せることが多かったGAKUさんだが、絵を描くようになってからは「表情が安定し、自信がついたように見える」という。

 ロサンゼルスでは9年間暮らした。ポップな作風には「ロサンゼルスの明るさや色彩も影響している」と典雅さんは言う。

 19年5月には都内で初めての個展が実現。以降も国内外のギャラリーや商業施設で展示を重ねている。来年春には米バッグブランド「レスポートサック」とコラボレーションした商品の発売も決まった。画集出版のために今夏実施したクラウドファンディングでは、目標額を大きく上回る約1200万円が集まり、地元にギャラリーを開くことにした。

 典雅さんは、GAKUさんの作品を通じて「自閉症に興味を持ってもらいたい」と願う。「障害の有無に関係なく、みんな可能性を持っている。自閉症の人と出会った時『あのGAKUと同じなんだ』と思ってもらえれば、『かわいそう』とか『よくわからない』というイメージが変わると思う」

 ギャラリー(川崎市高津区溝口4丁目)は完全予約制。入場料3千円、学生は無料。詳細はホームページ(http://bygaku.com/別ウインドウで開きます)へ。(土屋香乃子)

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