先代は倒れ、工場長は亡くなった 逆境の3代目が挑むマシュマロの夢

染田屋竜太
【動画】マシュマロ一筋の老舗「八千代堂」=八千代堂提供、染田屋竜太撮影
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 マシュマロ一筋で勝負する大阪・生野の製菓会社。「今までのマシュマロのイメージをひっくり返したい」と、創業110年の歴史を背負う社長は、次々に新商品を開発する。「世界に日本のマシュマロを届けたい」と夢は大きい。

 「こんなに可能性のあるお菓子ってない」。八千代堂(生野区小路東5丁目)の事務所で堀江聡(そう)社長(46)はうれしそうに話す。問屋などに卸すほか、ネット直販もする同社の商品数十種類はすべてマシュマロ。「これ一本はリスクと言われるかもしれないが、徹底的に突き詰められる」

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八千代堂が販売する、2022年の干支をかたどった「とらさんマシュマロ」=同社提供

 創業は1911年。聡さんの曽祖父、尊一(たかいち)さんが歓楽街の松島新地(現大阪市西区)の芝居小屋近くでせんべいを売ったのが始まりだ。その後、寒天などでつくる和菓子「鳳瑞(ほうずい)」も扱うように。だが、鳳瑞が売れるのはお盆の時だけ。80年前くらいから舶来もので鳳瑞と食感が似ているマシュマロを独自に作り始め、祖父の一博(かずひろ)さんが継ぐと、次第に商品をマシュマロに絞った。

 小さい頃から作業場に出入りして小遣い稼ぎに手伝っていた聡さん。一度は外に出て働こうと食品メーカーに就職した。24歳の時、一博さんが営む八千代堂に。「祖父の下でマシュマロ作りや経営をじっくり学ぼう」。漠然と思い描いていた計画が覆されたのが4年後。一博さんが倒れた。

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大阪・生野の八千代堂が販売している動物など様々なマシュマロ=同社提供

 老舗の看板が突然両肩にのしかかってきた。「取引先とどうつき合えば良いのか」「社員をどうまとめればいいのか」。病院のベッドに横になる一博さんを日参し、質問攻めにした。

 翌年、今度は長年会社を支えてきた工場長が急死した。「経営だけでなく、商品の方も全部責任を持たなければならなくなった」。機械一つが故障しただけで立ち往生。無駄を省こうと工夫すると工程が滞った。取引先から「八千代堂さんは味が落ちた」とこぼされた。「あまりにしんどく、当時の記憶がない」と聡さんは苦笑する。

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大阪・生野の八千代堂が販売しているクリスマス向けのサンタや雪だるまのマシュマロ=同社提供

 数年して商売が軌道に乗り始めたが、聡さんにはどうも納得いかないことがあった。「マシュマロは菓子の中でも下に見られている」。周りも「小さい頃に食べた記憶があるけれど、あまりおいしくなかった」という人が多い。海外ではサバイバルゲームの「銃弾」としても使われるという。食感も見た目もおいしさも楽しめる菓子なのに……。

 付加価値が必要と考えた。味はもちろん、犬や猫、ハロウィーンにはカボチャやおばけ、クリスマスにはサンタなど、思わず「かわいい」と言われるようなデザインにこだわった。買った子どもたちは「食べたらかわいそう」と言ってくれた。添加物をなるべく入れず、アレルギーを持つ子どものために、小麦粉や卵を使わない商品も開発した。

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大阪・生野の八千代堂が販売している魚形のマシュマロ、「フィシュマロ」。頭からしっぽまで、13・5センチだ=同社提供

 2007年にはネット販売を開始。19年に生み出したのが、「フィシュマロ バアアアアン!!」(4個入り税込み880円)。キャンプ人気でバーベキューでマシュマロを焼く人も多くなり、「それなら楽しくおいしく」と魚の形をした商品を開発。技術を詰め込み、火であぶるとおいしくなる工夫もした。SNSを中心に人気を呼んだ。

 今年から発売するのが、干支(えと)をかたどった商品だ。寅(とら)年にちなみ、「とらさんマシュマロ」(6個入り税込み1047円)。日本の行事にも合うマシュマロをつくろうと挑戦する。

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大阪・生野の八千代堂が販売しているうさぎのマシュマロ=同社提供

 「世界各地のマシュマロを食べてきたが、日本のものが間違いなく一番おいしい。海外の人に、この味を知ってほしい」と思う。「伸びしろがたくさんあるマシュマロづくりにわくわくしています」と笑った。

 八千代堂のマシュマロは、楽天市場の「マシュマロキッチン」(https://www.rakuten.ne.jp/gold/marshmallow-k/別ウインドウで開きます)で購入することができる。(染田屋竜太)

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大阪・生野の八千代堂が販売している魚形のマシュマロ、「フィシュマロ」。頭からしっぽまで、13・5センチだ=同社提供
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八千代堂の3代目としてマシュマロ一筋を突き詰める堀江聡社長=2021年11月30日、大阪市生野区、染田屋竜太撮影
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大阪市生野区の製菓会社「八千代堂」では、出荷前に一つ一つマシュマロの検品がされていた=2021年11月16日、大阪市生野区、染田屋竜太撮影
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大阪・生野の八千代堂が販売しているうさぎのマシュマロ=同社提供