巨大地震の被害想定、悩む自治体 「厳しい数字」「対策の正解ない」

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西川祥一、武沢昌英、土肥修一、西晃奈
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 北海道から東北の太平洋沖で予想される巨大地震の被害想定が公表された。津波からの適切な避難方法は、住民の避難意識を高めるには――。災害対応の最前線に立つ自治体の減災に向けた取り組みは、待ったなしだ。

 北海道では日本海溝、千島海溝の両地震で、最大の死者数が想定されている。

 約40キロの海岸線を抱える苫小牧市は、日本海溝地震による浸水面積が最大約1万ヘクタールと想定され、道内で最も広い。なかでも大工場が並ぶ勇払(ゆうふつ)地区は全域が浸水地域で、最大約8メートルの津波が地震の45分後に到達するという。

 住民約1800人の高齢化は進んでおり、自治会長の萬(よろず)誠さん(73)は「障害者や高齢者ら災害弱者をどう避難させればいいか」と心配する。市の調査では避難時に支援が必要な人は100人程度。市は徒歩避難の原則を改め、車での避難の呼びかけも検討するが、高台に抜ける道路は限られ、渋滞で津波に巻き込まれるおそれもある。市の担当者は「対策の正解がない」と悩む。

 海岸に近い低地に約5500人が住む釧路市の大楽毛(おたのしけ)地区には、千島海溝地震の発生から約30分後に最大10メートル級の津波が襲い、ほぼ全域が浸水するとされる。連合町内会長の中村啓さん(84)は毎朝、津波に備えて自宅から一時避難場所の高台まで約2キロを散歩している。「停電で真っ暗闇の凍った道でも、懐中電灯一つで行けるようにしないとだめ。高齢の住民には普段から歩くように口を酸っぱくして言っている」。ただこの場所は屋外で、冬は厳しい寒さに見舞われる。町内会は複合施設や津波避難タワーの新設を市に要望するが、具体化はしていない。

 最大で約4万1千人の死者が出るとされた青森県は、対策の見直しを迫られている。県が7年前に発表した太平洋沖を震源とする大地震による被害想定では死者は2万5千人で、今回はそれを大きく上回ったからだ。避難者は最大で約25万9千人に上るといい、県防災危機管理課の担当者は「食料や毛布などの備蓄も見直しが必要だ」と話す。

 早期避難が減災のカギとなるが、県内の自主防災組織の活動カバー率は全国ワースト2位の55・4%(2020年4月時点)。「県内は大災害に見舞われた経験が少なく、住民に組織づくりの必要性の認識が薄かったと考えられる」。県は組織づくりや人材育成のため、専門家による研修会に力を入れるという。

 県内で最も高い26・1メートルの津波が襲うとされる八戸市では東日本大震災以降、ハザードマップを改訂し、避難場所や避難タワーの整備を進めてきた。今回の想定を受け、ハザードマップを再び改訂し、避難計画も見直す。防災危機管理課の下村晃一課長は「数字を見ると『何をやっても無駄だ』とあきらめそうになるかもしれない。被害を最小限にとどめるため、できることをしたい」と語った。

 東日本大震災の死者・行方不明者が6200人余りに上った岩手県では、今回の想定で最大約1万1千人の死者が出るとされた。「最大の被害想定ということで冷静に受け止めているが、震災を超える犠牲者が出るという想定はたいへん厳しい数字だ」。県防災課の担当者は厳しい表情で語る。

 最大16メートルの津波が想定される久慈市は、人口約3万3千人のうち約2万人が浸水想定区域内に住む。市役所が約5・3メートル浸水するなど、中心市街地の大半が浸水エリアに入る。市は、県内で昨年9月に公表された浸水想定を受け、避難場所を高台などに15カ所新設した。ただ、今年11月に実施した避難訓練では、対象にした2万人のうち参加したのは約1600人だった。市消防防災課の田中淳茂課長は「訓練を重ねることで、リスクの高さを知ってもらうしかない」と危機感をにじませる。

 市役所近くの東広美町地区は震災で津波の被害を受けず、2年前の台風19号で川があふれそうになって避難指示が出ても、避難する人が少なかった。自主防災会の事務局長の大石純夫さん(69)は「住民の危機意識が緩んでいる可能性がある。避難する意識を持ってもらえるよう活動を続けたい」。11月の市の避難訓練への参加を会報で呼びかけ、町内の目につく場所に日程を張り出した。その結果、当日は自治会として最多の90人が参加したという。(西川祥一、武沢昌英、土肥修一、西晃奈)

太平洋側の津波、10メートル超

 被害想定の前提になっている…

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