第2回香り立つバラの花束 温かかった3月のあの日、モールで彼女を待った
ソウル=神谷毅
連載「それでも、あなたを」北朝鮮・韓国編②
【北朝鮮・韓国編①】書店で声をかけてきた彼は北朝鮮外交官 南北の壁を越えた愛の実話
モスクワなどを舞台に、北朝鮮男性と、韓国人女性の間に芽生えた愛を描いた実話です。
サンヒョクは、大使館の敷地内の住居棟に住んでいた。
サンヒョクの手には、書店で知り合った韓国人女性ミナの電話番号が書かれたメモがあった。
「韓国人と接してみたい」。長年抱いてきた思いが、いよいよ実現する。
居室での通話は同僚に聞かれるかもしれない。同僚が寝静まる夜を待とう。
深夜。サンヒョクは携帯電話を手にとった。メモに書かれた番号を間違えないよう、ゆっくり押す。
呼び出し音が鳴ると、すぐに相手が電話を取った。ミナだった。「本当にごめんなさい」。ミナは何度もわびた。
ミナが説明するには、書店でサンヒョクに出会った日のすぐ後にロシア国外に長期出張に出た。その間、サンヒョクの電話番号を登録した携帯電話をなくしてしまった。だから、書店に連絡先のメモを残したという。
その日の通話は、数分間で終わった。しかし、その日から2人はほぼ毎日、電話をするようになった。10分が20分に。すぐに1時間を超えた。
サンヒョクは当初、外交官だと打ち明けなかった。ミナが韓国の当局者であることを警戒したからだ。
2カ月ほどたったころ。気軽に身の上話をするようになり、話はサンヒョクの仕事のことに及んだ。
まず、大使館で働いていると…