エイズ、「死の病」ではなくなったが 生涯のみ続ける薬、完治へ研究

姫野直行
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 後天性免疫不全症候群(エイズ)は1981年に米国で初めて見つかり、40年が経つ。適切な治療を受ければ発症することはなく、「死の病」ではなくなった。しかし今でも患者は偏見や差別に苦しみ、完治への希望を持ち続けている。

 エイズはヒト免疫不全ウイルス(HIV)に感染して発症する。治療法がなく、多くの患者が亡くなったことから「死の病」とされていた。しかし、1990年代中ごろに、抗HIV療法が登場して状況が一変した。

 国立病院機構大阪医療センター臨床研究センター長の白阪琢磨医師によると、3種類の薬を併せて使う「カクテル療法」によって、ウイルスを劇的に減らすことができるようになった。ただ、副作用が強かったという。白阪さんは「当時は命を救えればいいという状況。副作用のために仕事を辞めなければならない人もいた」と振り返る。

一生のみ続けなければならない薬

 その後、新しい薬が次々に開発された。現在は1日1錠のむだけでよく、副作用もかなり抑えられた薬が複数出ている。

 薬をのみ続ければ、ウイルスの量が減り、血液検査で検出されなくなる。免疫機能が回復するのでエイズを発症することもない。

 ウイルスが検出されない状態が半年以上続いていれば、避妊具を使わない性交渉でも人に感染させることもないとされる。ただ、HIVが体内から完全に消えることはなく、薬をやめるとウイルスが増えるので、生涯のみ続けなければならない。

 薬害エイズ被害者の花井十伍さん(59)も、薬をのみ続ける一人だ。副作用は少なくなったが、今でも太りやすかったり、悪夢を見たりするという。

 副作用に耐えきれず、服薬をやめたこともあった。「薬が体から抜けると、すっきりして楽になった」。だが、体内でウイルスが増え、免疫機能が落ちてきたため、再開したという。

 高齢の患者の中には、認知症で薬をのみ忘れる不安もある。現在は1週間に1回のむ薬や、1カ月に1回注射する薬の開発も進んでいる。

待たれる「完治」

 患者は偏見や差別にも苦しんでいる。製薬企業が2020年、20~50代の日本人男女1千人を対象に実施した調査でも、8割以上がHIV感染症について、「死に至る病」と答えた。薬によってウイルスの量が抑えられることや、その場合には性行為でも感染させないことを知っている人はともに2割にとどまった。

 患者は体から完全にウイルスが消える「完治」を望んでいる。花井さんも「完治への期待はある。薬をのんでいれば大丈夫といわれても、完全に薬が抜けた体になってみたい」と話す。

 ただ、HIV感染後に薬なしでウイルスが検出されなくなった例は、幹細胞移植を受けた英国の男性など、世界でもごく限られる。

進む研究、ウイルスを消すワクチンも

 研究は進んでいる。国立研究開発法人「医薬基盤・健康・栄養研究所」の研究班は11月、サルを使った実験でウイルスを体内から完全に排除できるワクチン技術を開発したと発表した。

 研究班は、HIVが体内で増えるために必要な遺伝子ゲノム編集で取り除き、そこに免疫反応を強める物質を出す細菌の遺伝子を組み込んだ生ワクチンを作った。サルに接種したところ、一度はウイルスに感染したが、その後ウイルスは検出されなくなった。

 その後、100%死亡する強毒ウイルスに感染させても、7頭のうち6頭でウイルスは検出されなかった。

 ワクチンに使うウイルスは弱毒化だけでは生体内で生き続けるが、細菌の遺伝子を組み込んだことで、生体の免疫反応で排除される。そこで研究班は、患者から採取したHIVからワクチンを作るオーダーメイドの治療法を検討している。

 同研究所霊長類医科学研究センターの保富康宏センター長によると、5年以内にヒトでの臨床試験(治験)を始める構想だ。「研究発表後、治験に参加したいという声がすぐに寄せられた」と話す。現在は、ワクチンの用量や回数、期間など治験の実施要綱(プロトコル)をサルを使って検討しているという。

 国立病院機構大阪医療センターの白阪さんは完治について、「いつとは言わないが、必ずその時が来る。HIVが発見されてから約40年、治療法ができてから30年近く。そう考えると、長くて20年以内にはできると思いたい」と話す。(姫野直行)

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    長島美紀
    (SDGsジャパン 理事)
    2021年12月23日16時51分 投稿

    【視点】三大感染症のひとつエイズは1970年代後半にアメリカで「発見」されたときに、同性愛者がかかる病気とみなされ、差別と偏見を生み出しました。1980年代以降に世界的な感染拡大が報告される中でもエイズへの偏見は色濃く残ることとなります。 日本で