想像力の生む恐怖とは 野田秀樹作・演出の「THE BEE」 

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吉永美和子・ライター
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 想像するという行為は、基本的には楽しいものだ。しかし、筒井康隆の短編「毟(むし)りあい」を原作に、暴力の連鎖の構図を小空間に圧縮した、NODA・MAP番外公演「THE BEE」(野田秀樹作・演出、12月16日、大阪・ナレッジシアター)は、想像を働かせるからこそ生じる恐怖を、様々な面から浮き彫りにしてみせた。

 平凡なサラリーマン・井戸(阿部サダヲ)は、脱獄犯の小古呂(おごろ)(川平慈英)に妻子を人質に取られる。担当の百々山(どどやま)警部(河内大和)の捜査に不信感を抱いた井戸は、警官の銃を奪い、小古呂の妻(長澤まさみ)と息子(川平)を人質に。小古呂を脅すために2人を傷つけていくが、彼も負けじと報復に出て、その暴力はエスカレートしていく。

 普通の市民が、悪事を正当づける道理と、有効なアイテム(銃)を手に入れたことで凶暴化する。テロや戦争のみならず、SNSの炎上騒動などにも通じる、暴力の本質だ。

 この凄惨(せいさん)な現場を、直接的な描写ではなく、舞台一面をおおう紙を破いたり、鉛筆や割り箸を折ったりするなど、日常的な動きと道具で暗示。観客がその意味を想像すればするほど、リアルな苦痛と恐怖が増す、演劇ならではの暴力描写だ。

 残忍な衝動を止められない井戸を、コミカルさと紙一重で演じる阿部。その暴力の過程で変化する、複雑な心理を表現する長澤の熱演も、観客の想像力をかき立てる。

 そして登場人物たちががんじ…

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