山・畑の守り手 猟友会ピンチ 埼玉で後継難深刻

黒田早織
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 野生動物による農業被害などを食い止める各地の猟友会が、深刻な後継者不足に直面している。狩猟免許を取る若者は増えているのに、なぜなのか。

 山の中で放された猟犬が獲物を追い始めると、猟師が持つ無線機から緊張感のある声が飛び交った。「犬が早い。モノに迫ってる」「北斜面にいる人は気をつけろ」「来るぞ、落ち着いて」。

 バキッ、バキッ。逃げてきたニホンジカが枝を踏む音が静かな山に響く。パァァン。ニホンジカを仕留めた一発の発砲音が山にこだまして3回きこえた。今月中旬、埼玉県小川町猟友会都幾川(ときがわ)支部(都幾川猟友会)による集団猟「巻き狩り」に同行した。県の委託を受けた捕獲事業だ。

 「私が若い頃、ときがわにシカは出なかった」と支部長の内田富三男さん(72)が言うように、野生動物の生息地は年々広がっている。

 県みどり自然課によると半世紀前、ニホンジカやイノシシの生息区域は秩父から飯能にかけてだったが、近年はときがわ町を含む比企郡など東側や本庄市など北側に拡大している。

 人口が減り、人里近くに住み着く個体が増えたとみられる。県境にある秩父の甲武信岳など2千メートル級の山で積雪が減ったため、長野や山梨などから稜線(りょうせん)づたいに埼玉に入っている可能性もある。

 山には、シカが食べたり角を研いだりして樹皮がぼろぼろの木が何本もあった。シカが好む若い木を守るため、2メートル近い高さの網で囲われた区域もある。「シカは首が届く範囲の草木をなんでも食べる。植物が根こそぎなくなると、土壌の保水能力が失われてしまう。生態系保全のために捕獲は不可欠」。課の担当者はそう話す。

 農業被害も大きい。昨年度の野生鳥獣による農作物被害は、県内39市町村で約8千万円にのぼる。防除技術の向上で、この10年で減ってはいるが、高齢化が進む農家にとっては痛手だ。

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 自治体の委託を受けて捕獲にあたるのは地元の猟友会が多いが、いずれも後継者不足に悩んでいる。都幾川猟友会は町内外の約15人で活動するが、30代以下はおらず、ほとんどが70歳以上。最高齢は85歳だ。

 一方で狩猟免許を取る若い世代は近年増えている。環境省によると、1975年をピークに減少が続いた20~30代の狩猟免許所持者数は、2006年度から増加傾向に転じ、17年には06年の約2・5倍の2万5900人。集計中の17年以降も同じ傾向という。

 環境省によると、ライフスタイルの変化で若者の間で地方や自然に関心が高まってきたことや、漫画やYouTubeなどで狩猟がとりあげられることが増えたことなどが理由として考えられるという。

 しかし、若い世代は趣味にとどまり、猟友会に入って獣害対策に携わることは少ない。ときがわ町で昨年から地域おこし協力隊員として猟友会で活動する泉名健三さん(44)は、若い人にはなじみにくいと実感している。「活動は想像以上に厳しい。始めた頃は初耳なのに『さっき言ったろ』と怒鳴られるなど、理不尽なことはいっぱいあった」と苦笑いする。

 ただ、猟には技術や経験が必要で、地域の理解も欠かせない。若い世代は我流でやる人も多いというが、泉名さんは「結局1人じゃうまくいかない。ベテランたちのノウハウを学ぶことは必要」と考えている。

 県みどり自然課は、ベテラン猟友会員が若者を含む初心者と共に巻き狩りをする「共同捕獲事業」を約10年前から開催し、両者の接点をつくる努力をしている。今年度に参加した20~30代は計7人。指導役のベテランが約50人参加したのと比べて若者の少なさが際立つが、課の担当者は「現場で経験豊富な人に指導してもらって初めて身につくことも多い。現場での講習に参加しやすい雰囲気づくりを模索し、レベルに応じて段階的に学べる場を増やしたい」と話している。(黒田早織)