詐欺に気づいた91歳、あえて通帳差し出した 男がつかんだ瞬間に…
福岡県春日市で、特殊詐欺の電話を受けた91歳の男性が、機転を利かせて犯人との会話を約1時間半長引かせ、「受け子」とみられる容疑者の逮捕に貢献して県警と市から表彰された。
一方、県警によると最近は、詐欺グループによる犯行が「時短」化の傾向にあるといい、県警は今回のような迅速な通報と冷静な対応を呼びかけている。
「家電量販店で、あなたの名義で高額な商品が購入されている」
10月25日午後0時半ごろ、福岡県春日市の無職、足立良次さん(91)宅に家電量販店の店員をかたる男から電話がかかってきた。最近、そんな店で買い物した覚えなどない。
「覚えてないなあ。私の名前で?」。下の名前の漢字まで確認したが、合っている。男は足立さん宅の住所も番地まで正確に答えた。
報道などで、特殊詐欺の手口は知っていた。相手は、個人情報の名簿をもっているのではないか。男が「警察から連絡がくる」と言い一度電話を切った隙に、足立さんは110番通報した。
間もなく、今度は警察官を名乗る男から電話がきた。男は銀行の口座から50万円おろされ、全国銀行協会が弁償してくれる、として「通帳とカードを証拠品として預かるために博多署員が家に向かう。10分後にはうかがいます」と言った。
玄関先に現れた「博多署員」
博多署から春日市まで、10キロ近くある。10分では着かないはずだ。やはり詐欺だろう。本当の警察官が到着するまで、男との会話を引き延ばさなくては。足立さんは一計を案じた。
男から通帳とカードを封筒に入れるよう指示されると、「どこにあったかねえ」。まずは、封筒を探すのに時間がかかっているふりをした。続けて「銀行にも連絡しなきゃ」。こう男にかまをかけてみると、慌てて「大丈夫です、全国銀行協会が手続きしてます」と必死でとめてくる。こんなやりとりで20分ほど時間を稼いだ頃、通報をもとに春日署員がやってきた。
署員に対応するために慌てて電話を切ると、すぐに、再び男から電話がかかってきた。「なぜ電話を切った」と怪しまれたが、「受話器を落とした」と、足立さんはしらを切った。
その後も男が話した内容をわざと復唱したり、署員が筆談で指示した答え方で話してみたり。のらりくらりと、電話口でさらに30分ほど話を続けると、玄関先にスーツを着た「博多署員」を名乗る若い男が、緊張した様子で訪ねてきた。孫と同世代だろうか。「生活に困っているのか。就職活動がうまくいかなかったのか」。一瞬、胸が痛んだが、「でも、このままじゃいかん」。
署員の指示に従い、カードと通帳を入れた封筒を男に差し出した。男が封筒をつかんだ瞬間、トイレに隠れていた署員が飛び出し、別の署員は玄関へと回って男を挟み撃ちにし、男は詐欺未遂容疑で現行犯逮捕された。最初の電話から、約1時間半が経っていた。
春日署によると、男は詐欺グループの「受け子」とみられ、容疑を認めたという。署と春日市からの表彰式の場で、足立さんは「もういっぺん詐欺の電話がきたら、(だまされたふり作戦を)やってやろう」と笑った。(杉山あかり)
犯行「時短」の傾向 受け子が待機、だまし取るまで30分
警察庁と福岡県警によると、昨年の特殊詐欺被害は全国で1万3550件(被害総額285億2千万円)。このうち、福岡県内の被害は201件(3億9千万円)だったが、今年は11月末時点ですでに昨年同期を98件(1億7千万円)上回っている。
対策の課題は、巧妙化する手…