気色の悪いほど社会と同化した一年だった 本谷有希子さん寄稿

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 今年もあと残りわずか。コロナ、五輪、総選挙。大きな出来事が重なった2021年、あなたはどう過ごしましたか。小説家で劇作家の本谷有希子さんに、この1年を振り返るエッセーを寄せてもらいました。

■寄稿

 2021年は私にとって、興味深い一年だった。もう遠い過去のような感慨を覚えることに何よりも驚くが、世の中がしぶとく燻(くすぶ)り続けているコロナにまだ翻弄(ほんろう)されていた上半期、第二子を身籠(みご)もっていた私は出産に備え、本能的に社会とディスタンスを図っていた。

 頼まれずとも、臨月前にはさっさと仕事を切り上げ、早々に実家のある石川に長女を連れて居座り続けたから、この一年を思い返してみたところで、極めて私的な記憶しか出てこない。あの頃の私にとって、世間や社会は対岸にぼんやり霞(かす)んで見えていて、世界的混乱すらもどこかタチの悪いフィクションだった。

 生活様式は確かに影響を受けた。陣痛が始まっても東京の家族は産院に入れてもらえず、実家の人間さえ入り口前で荷物の受け渡しのみ。私は誰の立ち会いもないまま、ソーシャルディスタンス式の出産を終えたのだった。

 しかし「コロナのせいで大変だったね」と言われるが、なぜかその因果関係が私には今ひとつピンとこない。むしろ自分にとって最も疫病と結びついて印象深いのは、実家にいる間、朝から晩までつけっぱなしのテレビ番組だった。

 生まれたばかりの赤ん坊に一…

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