飲み薬はオミクロン株にも有効か メルク製とファイザー製の違いは

有料記事新型コロナウイルス

編集委員・田村建二
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 新型コロナの重症化を防ぐため開発された米メルク社の飲み薬「モルヌピラビル」について、厚生労働省の部会が24日、特例承認を了承した。米ファイザー社も飲み薬「パクスロビド」を開発し、米食品医薬品局(FDA)が緊急使用許可を出した。近く日本でも承認申請される見通しだ。変異ウイルスのオミクロン株が国内でも広がりつつある中、新たな飲み薬の登場にはどんな意味があるのか。すでに使われているワクチンや「抗体カクテル」などの抗体医薬と、役割はどう違うのか。

 モルヌピラビルとパクスロビドは、どちらも感染したウイルスが体内で増えるのを防ぐ。この作用が、ワクチンや抗体カクテル療法などとの大きな違いだ。

 ワクチンは、ウイルスが細胞に感染するのを防ぐ「中和抗体」というたんぱく質を体内でつくらせるのが主な役割だ。抗体はウイルスの「とげ」のような部分に取りつき、ウイルスが細胞にくっつくのを邪魔する。

 抗体カクテル療法「ロナプリーブ」をはじめとする抗体医薬は、中和抗体を人工的に増やして点滴や注射をして、ウイルスの感染を防ぐ。

 しかし、オミクロン株は現行ワクチンによる抗体をすり抜けて感染してしまいやすいとされている。

 さらに、ロナプリーブを開発した米リジェネロン社は、「オミクロン株に対してはロナプリーブの効力が低下する」との声明を発表した。

 抗体の働きを調べた実験の結果で、実際の患者への効果の有無をみたわけではないが、これからの治療に影響が出るおそれが出てきた。

 これに対して、モルヌピラビルとパクスロビドは、細胞に入り込んでしまったウイルスが、細胞の中で増えるのを食い止める作用がある。いわば、ワクチンなどの防御をすり抜けて侵入した敵をたたく役割だ。

 ワクチンや抗体医薬とは作用する仕組みが異なるため、飲み薬の効き目はオミクロン株にも大きく影響を受けないのではないか、とみられている。

軽症や中等症を想定

 メルクとファイザーはそれぞれ、実験の結果として、それぞれの薬がオミクロン株に対しても抗ウイルス活性を示した、と発表している。

 飲み薬は、細胞の中でどう作用するのか。

 新型コロナウイルスは肺などの細胞に感染すると、細胞内でRNAという遺伝物質をコピーのようにして増やしつつ、RNAの情報をもとにウイルスの材料となるたんぱく質をつくる。

 そのたんぱく質が組み合わさって、ウイルスの外側部分がつくられる。そこにコピーされたRNAが収まって、新しいウイルスが完成する。ウイルスはこのようにして、細胞の中でどんどん増えていく。

 創薬に詳しい京都大薬学研究科の掛谷秀昭教授によれば、モルヌピラビルは細胞内でウイルスから新しいRNAがつくられるのを、パクスロビドはウイルスの材料となるたんぱく質がつくられるのを、それぞれに関わる酵素の働きを邪魔することで防ぐという。そして、体内でウイルスが増えないようにする。

 いずれの飲み薬も、使うことが想定されているのは軽症や中等症の感染者だ。

 メルクは11月26日、モルヌピラビルを発症から5日以内に飲んだ人は飲まない人と比べ、入院したり死亡したりする確率が30%低かったとする臨床試験結果を発表した。

 同社は10月、試験参加者が約760人だった段階での中間解析として「約50%減の効果」と発表していたが、参加者を約1400人に増やした結果では、効果は当初よりも低くなった。

 一方、ファイザーは12月14日、約2250人が参加した臨床試験の結果として、パクスロビドを飲んだ人での同様の確率は発症から3日以内で89%、5日以内で88%低かったと発表した。

 結果を見る限り、パクスロビドのほうがより効果が高いように見える。

 新型コロナに関する厚生労働省の「診療の手引き」づくりにも携わる長崎大の迎(むかえ)寛教授(呼吸器内科)は「それぞれの臨床試験が実施された地域や時期が異なり、同じ集団で二つの薬を直接比べたわけではない。だから、どちらが優れているかを現段階で判断するのは難しい」と説明する。

 とはいえ、モルヌピラビルに対する期待感が中間解析の段階よりも下がってしまった面は否めない。

 安全性に関しては、いずれの臨床試験でも、それぞれの飲み薬によって重い副作用が出たという報告はされていない。

 点滴や注射が必要な抗体医薬と違い、飲み薬は一度外来で処方を受ければ、自宅で治療を続けられる。広く行き渡れば、治療を受ける患者にとっても、医療機関にとっても、これまでより負担が軽くなると期待されている。

 薬によって体内でのウイルス量を減らせれば、感染した患者が自宅などで過ごしていても、家族らに感染させてしまうケースも少なくできそうだ。

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