審査員が「気絶」、コロナが僕らを本気に… 激戦のM-1を振り返る

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西田理人
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 史上最年長チャンピオンの誕生――。中年コンビ「錦鯉(にしきごい)」の優勝で幕を閉じた今年のM-1グランプリ。12月19日の決勝には例年以上に個性豊かな面々が顔を並べた。出場コンビ10組の奮闘ぶりを、取材した記者が主観たっぷりに振り返る。

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優勝トロフィーを持つ錦鯉(C)M-1グランプリ事務局

 (掲載は出番順、コンビ名の右はファーストステージの点数と順位)

モグライダー 637点 8位

 「いいえ、私はさそり座の女~♪」。誰もが知っている美川憲一の代表曲のサビは、なぜ「いいえ」から始まるのか。そんな斬新な切り口が光るネタで、トップバッターとしては異例の高得点をたたき出した。

 一生懸命だけど、どこかずれている。そんなともしげの天然キャラをいかすため、普段の舞台はアドリブが中心。ネタをあえて作り込まず、練習もほとんどしないという感性頼みのスタイルは、芸人仲間から高く評価されていたが、賞レースではなかなか結果が出なかった。

 そんな2人を変えたのが、昨年からのコロナ禍だった。ライブの出番は激減し、生活の糧としていたアルバイトもなくなった。ともしげは「自分がいる意味はあるのかと何度も悩んだ」という。そして2人は芸人としての生き残りをかけて、M-1と真剣に向き合うことを決意。芝大輔が「初めて本気で作り込んだ」というネタで、ついに決勝の舞台にたどりついた。

 錦鯉にばかり注目が集まった今大会だが、ともに40歳手前のモグライダーもどちらかと言えば遅咲き組。互いに何度もコンビを組み直し、ようやく見つけた相方同士で、取材時の言葉の端々には深いコンビ愛も感じた。来年の活躍が楽しみな2人だ。

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モグライダーの芝大輔(左)とともしげ(C)M-1グランプリ事務局

ランジャタイ 628点 10位

 点数こそ最下位だが、それもまた彼らの思惑通りか。審査員たちの困り顔と酷評も全部ひっくるめて、決勝の舞台そのものを「ランジャタイ劇場」に変えてしまった。

 激しい動きと奇声を発しながら繰り広げられる荒唐無稽な芸に、客席はひたすら爆笑の渦に包まれた。一方で、審査員席はほぼ一様に渋い顔。上沼恵美子にいたっては「気絶していた」という。しかし辛辣なコメントが飛ぶたびに、会場では待っていましたとばかりにさらなる笑いが起きていた。「決勝で盛大にスベりたい」と語った国崎和也が望んだ通りの展開だったかもしれない。

 幕間でも審査員のオール巨人の等身大パネルを持ち込んで笑いを取り、さらに当人からは「事前に2人から直筆の手紙をもらっていた」との心温まるエピソードを暴露される。そして何より印象的だったのが、ネタが始まる直前、相方・伊藤幸司の背中をポンとたたいた国崎のしぐさ。無軌道なだけではない素の人柄がのぞいた瞬間に、ぐっと心をつかまれた視聴者は少なくないはずだ。

 ハネるかスベるか二つに一つ、という周囲の期待に、見事な形で応えてみせた。自分たちらしさを貫き通し、勝敗とは別の次元で輝きを放った2人の姿は、まさに記録より記憶に残るもの。影の優勝者とも言える圧倒的な存在感。来年がラストイヤーという事実が、あまりに心惜しい。

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ランジャタイの伊藤幸司(左)と国崎和也(C)M-1グランプリ事務局

ゆにばーす 638点 6位

 男女の友情はアリかナシか――。ファイナリストで唯一の男女コンビは、異性の関係性をネタに落とし込み、ディベート風の漫才を繰り広げた。特筆すべきは、単なる正論のぶつかり合いが笑いになること。理論派の川瀬名人のネタ作りの腕前と、はらの演技力が光った。

 M-1で勝つためだけに芸人になったという川瀬は、勝負にかける思いの強さゆえか、決勝前のインタビューで「むっちゃスベりそう……」などと悲壮感さえ漂わせていた。勝手に心配していたのだが、本番の舞台ではむしろ声がかすれるほど気迫にあふれ、審査員からは「気合が入りすぎ」とのコメントも。改めて、尋常ではないM-1への思いを見せつけられた。

 とはいえ、そんな川瀬と、はらのゆるいキャラクターとのギャップが絶妙で、そこにコンビの味わい深さがあるようにも思う。会場は終始笑いに包まれ、3年ぶりの決勝で上達ぶりをたたえる声も聞かれた。

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ゆにばーすのはら(左)と川瀬名人(C)M-1グランプリ事務局

ハライチ 636点 9位

 準決勝で敗退するも、寒空の下の敗者復活戦を勝ち抜き、5度目の決勝の舞台に立った。敗者復活戦では時間超過のブザーが鳴ったが、それさえもツッコミで笑いに変え、視聴者投票で1位に。久々の出場かつラストイヤーという話題性も大いに追い風になったことだろう。

 無表情で淡々とボケをかます岩井勇気と、ツッコミの澤部佑の大げさな身ぶりが好対照だが、決勝では関係性が逆転。岩井の暴れっぷりが審査員たちの度肝を抜き、松本人志に「新しいハライチを見た」と言わしめた。

 勝負よりも自分たちの見せたいものにこだわるという潔さが格好良い。ただそれは、売れっ子だからこそできる芸当だと言うこともできるかもしれない。

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ハライチの岩井勇気(左)と澤部佑(C)M-1グランプリ事務局

真空ジェシカ 638点 6位

 大喜利のごとく予想外の角度から次々にボケが飛び出し、それを分かりやすいツッコミで確実に笑いにつなぐ。とがった内容のネタでありながら、小刻みに笑いを生み出していくスタイルは、金髪マッシュルームとヒゲ面という印象的なビジュアルとともに、唯一無二の存在感を示した。

 慶応大学出身の川北茂澄と、青山学院大学出身のガクの「高学歴コンビ」でもあり、ネタには二進法やハンドサインといったふだん見慣れない単語も。審査員のオール巨人は「センスがめちゃくちゃ良い。分かりやすい言葉遊びで、細かい笑いを重ねていた」と評価した。

 ネタの披露後も、奇妙な変装で幕間を盛り上げるなど、随所でとがりまくっていた2人。そんな姿にハマってしまった人、たくさんいるのでは。

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真空ジェシカのガク(左)と川北茂澄(C)M-1グランプリ事務局

記事後半では、オズワルド、ロングコートダディ、錦鯉、インディアンス、ももの5組を振り返ります。上位3組による最終決戦の模様も。

オズワルド 665点 1位

 完成度の高さにおいて群を抜…

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