第3回「深夜食堂」のシンプルな卵味噌 弱っていても食べたくなる味

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田中瞳子
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 戸を開けると、コの字のカウンターがひとつ。客は、10人座れるかどうか。出迎えるのは、左目に大きな切り傷がある作務衣姿のマスター……。

 東京・歌舞伎町の新宿ゴールデン街にある「深夜食堂」。漫画誌「ビッグコミックオリジナル」で330話以上続き、テレビドラマ化もされた人気連載でおなじみの風景だ。

 作者の安倍夜郎さんに、年末年始のこの時期、おすすめのレシピを尋ねた。教えてくれたのは青森の郷土料理、「卵味噌」。第332夜に登場した一品だ。

 ある夜、売れないイラストレーターの男性が店に来て、卵味噌を頼む。風邪をひくといつも、青森出身の彼女がおかゆと一緒に作って食べさせてくれた思い出の料理だ。結婚のタイミングが合わず、2人はすれ違うが……。

 みそに酒と砂糖を入れて火にかけ、卵で練るだけのシンプルな工程だが、作ってみると、焦がさないようにするには案外気を使う。目を離さず、焦らずに。ひとすくいして白がゆにかける。少しだけ、みそが溶ける。口に入れると甘じょっぱさが広がり、こうじの香りが鼻に抜けた。シンプルだけど、刺激される。弱っていても食べたくなる。2人の思い出が、うらやましくなる味だ。

料理の名前が毎話のタイトルにもなるが、安倍さんは、「食はあくまでも、登場人物をチャーミングに描くためのひとつの要素」という。

「深夜食堂」の卵味噌のレシピ

【主な材料・2~4人前】

みそ大さじ2、砂糖大さじ1、酒大さじ2、溶き卵2個

【作り方】

鍋に酒、砂糖、みそを溶きながら入れます。焦げないように、菜箸で混ぜながら煮詰めます。なめらかになってきたら溶き卵を入れ、弱火でゆっくりなじませます。卵が少し固まってきたらできあがり。

ごはんやおかゆに少しずつかけると、おいしく食べられます。

冷蔵で1週間ほど保存も可能。

砂糖の量を多くすると子どもも食べやすくなります。酒をみりんに代えても作れます。「自分好みの配合を見つけてみてください」(安倍さん)

     ◇

 常連のやくざ者は、店に来るといつも赤いタコさんウィンナーを頼む。高校時代、同級生の女の子から差し入れしてもらった思い出の味だ。

 別の回では、店で出会った男性2人が、好きな食べ物の話で意気投合。しかし、出てきた目玉焼きを前にした瞬間、2人の空気は一変する。かけるのは、しょうゆかソースか――。居合わせた客も加わり論争になる。別の日には2人ともアジフライを頼み……。「これだけで1話描きました。調味料一つとっても、人にはこだわりがありますからね」。食との絶妙な組み合わせで、登場人物に血が通う。

 始まりは偶然だった。

食べても問題は解決しない、けれど

 高校時代から漫画研究会で創作に励んでいた安倍さんは、CM制作会社に就職後も、趣味で漫画を描き続けていた。会社員生活も19年が経った頃、小学館の新人賞に投稿した作品が大賞を受賞。2004年に41歳で漫画家デビューした。

 しかし、次の掲載作がなかな…

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