せりふのない絵本で虐待を防ぎたい 全国に本を届ける絵本作家の思い

佐藤瑞季
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 【愛知】せりふのない絵本を届けて、児童虐待を防ぎたい――。名古屋市の絵本作家が、そんな取り組みをしている。「子どもも、親も助けたい」。本は全国の親子1千組以上に届けられた。

 11月中旬、名古屋市中村区の子育て応援拠点「ぽかぽかひろば」で、就学前の親子7組に向け、ワークショップが開かれた。

 「絵、描いてみる? 何でも好きなことをしていいからね」。主催する生川(なるかわ)真悟さん(32)は工作をしたり絵を描いたりしながら、ゆっくりと語りかけた。

 机に置かれているのは、生川さんが手がけた絵本「あそぼ あっぷっぷ」。淡い色、やさしいタッチで、クマの親子のイラストが描かれている。

 絵本はあえて、余白を多くして、せりふをいれなかった。「子どもの想像力を大切にしてほしい」。読み聞かせのような一方的なコミュニケーションではなく、親子で会話するきっかけを作りたいと考えたからだ。

 本の最後に「たすけびと」として、困ったときの相談先が書き込める。ワークショップの終盤には、自治体がまとめた支援情報を一緒に見て、必要な連絡先を書き写してもらった。

 「困ったことがあったらいつでも連絡してくださいね」。帰り際も熱心に声をかけていた。長男(1)と参加した専業主婦の女性(31)は「1人目の子育てで分からないことだらけ。でも相談先がなかった。ほかの親子連れと話すこともできて安心した」。

 取り組みを始めて6年。助成金を利用したり自治体に購入してもらったりして、必要な人に無料で配っている。1冊330円でインターネット(https://hidamari-oka.org/2021/03/19/236/別ウインドウで開きます)で購入もできる。

 生川さんは大学卒業後、商社に1年ほど勤めた。昔から絵を描くのが好きで、保育士だった母親はよく読み聞かせをしてくれた。7年ほど前、絵本作家になろうと決意した。現在までに10冊の絵本を出している。

 取り組みに力を入れる背景には、幼いころ体が弱いのを心配した父親から「強くなる訓練」と称して傷つけられた経験がある。目の前に箸を近づけられても動揺を見せてはいけない。急に布団の中に押し込められても泣いてはいけない。長時間、正座させられることもあった。

 泣いたり騒いだりすると「訓練」が長引く。我慢するしかない。いつ怒られるか分からない。常にびくびくしていた。「これが当たり前」。当時は、そう思っていた。

 大人になってから「虐待」だと気づき、苦しんだ。今も感情表現が苦手。疲れていると「目の前の箸」を思い出し、先端恐怖症の症状がでるという。

 「子どもは虐待と気づかず、SOSを出せない。第三者が気づいて、父親に『ちゃんと子どもの気持ちに寄り添って』と声をかけてほしかった」

 そんな「第三者」になろうと活動を始めた。親が子どもを虐待するような状況になる前に、周囲にSOSを出せるようになってほしい。「子育てに悩む親を助けることで、子どもがのびのびと育っていける社会にしたい」。これからも一組でも多くの親子に本を届けるつもりだ。(佐藤瑞季)