第1回ジブリ鈴木Pが語るゴルゴ13と落合博満、宮崎駿 米国への愛憎巡り

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太田啓之
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 2021年9月に亡くなった劇画家さいとう・たかをさんが残した現代の古典「ゴルゴ13」を徹底的に読み込み、生きる糧にしようというこの企画。初回はスタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーに話をうかがいます。ゴルゴの愛銃「アーマライトM16」を部屋に飾っているほどのゴルゴマニア・鈴木さんが、記者との間で繰り広げる自由奔放、縦横無尽な対話の妙をお楽しみください。

【連載】今こそ学ぶゴルゴ13 デューク東郷の教え(全6回)

2021年9月に亡くなったさいとう・たかをさんが残した巨大な遺産にして、現代の古典である「ゴルゴ13」。ゴルゴとはいったい何者なのか。なぜ、私たちは彼に魅了されるのか。半世紀以上ぶれない彼の生き方から、今学べることは何か。プロデューサーの鈴木敏夫さん、作家の佐藤優さん、漫画家の竹宮惠子さん、「ゴルゴ13」唯一の女性脚本家・夏緑さん、最多のゴルゴ脚本を執筆してきたよこみぞ邦彦さん、「最強のゴルゴ通ライター」成田智志さんと考えます。

米国に憧れ翻弄され反米闘争した僕らとゴルゴ

 ――鈴木さんは「ゴルゴ13」の単行本を100冊以上所有されているそうですね。

 ゴルゴに触れたきっかけは、僕が徳間書店に就職した翌年の1973年に、映画化されたことでした。作者のさいとう・たかをさんは「ゴルゴのモデルは高倉健さん。実際に演じてくれるのはうれしい」と話していた。見る前に漫画の方を読み始めると、これがおもしろかった。期待して映画館に足を運んだら、あまりに安手な作りだったのでびっくりしました(笑)。健さんのゴルゴもまったく似合っていなかった。

 ――映画のゴルゴは、さいとうさん自身もあまり評価していませんね。

 でもね、僕「ゴルゴ13」が好きになっちゃったんでしょうね。恥ずかしい話だけど当時、ゴルゴが使っている銃「アーマライトM16」のモデルガンを買っちゃったんですよ。まずいことに、実は今でも部屋に飾っている(笑)。「こんな銃で人を狙撃するのは大変だろうなあ」と思うんですけど。

 ――確かにM16は米軍の歩兵用自動小銃で、長距離の狙撃には向いていません。「なぜ、ゴルゴはあえてM16を狙撃に使うのか」ということをテーマにしたエピソードもあるくらいです。

 絶対向いていないですよね。だけど、理屈はどうでもよかった。僕ら団塊の世代はモデルガンに異様にひかれるところがあって、周囲の人間もみんな持っていました。家にテレビが来たのは小学3年生の時でしたけど、当時のゴールデンタイムはアメリカのテレビシリーズが主流で、一部を除いて主人公はみんなピストルを持っていた。高倉健さんも、ゴルゴを演じる一方で、「荒野の渡世人」という映画に出ているんですが、この作品では西部劇のガンマンに扮して、しかも日本刀を持っている(笑)。

 やっぱりね、僕らの世代が銃に思い入れる背景には、日本が戦争に負けたことがあると思うんです。日本をやっつけたアメリカの力の象徴が銃です。それに憧れる一方で、アメリカに対する反発もある。「ゴルゴならば、アメリカとも互角に戦えるのではないか」という思いが僕らの中にあったのではないか。

 ――それは、鈴木さんの世代だけに限ったことではないと思います。

 ゴルゴが世界を股にかけて活躍する中、ところどころで「実はゴルゴの出自は日本と関わりがあるのでは」という話が挿入される。それがむちゃくちゃにうれしかったし、印象に残るんです。坂本九さんの歌う「上を向いて歩こう」が、米国・ビルボードチャートの1位になった時もうれしかった。僕らはアメリカに憧れ、翻弄(ほんろう)され、あげくの果てには70年安保で反米闘争を繰り広げた。複雑なんですよ。戦後の日本人の世界の中心点には、いつもアメリカがある。ゴルゴが人気を保ち続けてきたことは、何かそれと関係があるのでしょう。

 ――なるほど。確かにゴルゴは米国の大統領に対してもタメ口ですからね。

 負けちゃった日本は好きになれない。だけど、勝ったアメリカは日本をやっつけた国だ。じゃあ、誰を好きになればいいのか。ゴルゴは日本人にみえるけど、日本人じゃないかもしれない。そして、アメリカがベトナム戦争で使っていたM16で狙撃する。どうも、そのあたりにゴルゴの秘密があるのではないか。

 1968年にゴルゴの連載が始まった頃、ゴルゴを支持していたのは僕らより10歳くらい上の世代だったと思います。でもね、ゴルゴの単行本を改めて読み直すと、最初の頃はあまりおもしろくない。

 ――はっきり言いますね(苦笑)。

宮崎駿とはいまだに丁寧語」ゴルゴと通じる緊張感

 ところが、途中からゴルゴの寡黙なキャラクターが固まって、国際情勢の盛り込み方もうまくなると、がぜんおもしろくなる。その洗礼を受けたのが、僕たち団塊の世代ですよ。学生運動をやっていた連中も、就職したら「企業戦士」とか言われてよく働いた。そういうありようと、僕らのゴルゴへの心情がどこかでリンクしていたのでは、と思います。僕は「ゴルゴ13」は、団塊の世代が少年期に強い影響を受けた、ある「国民文学」の正統的後継者だと思っているんです。

記事後半では、中日ドラゴンズ元監督で親交のある落合博満さんとゴルゴとの不思議な類似点、そして自身の「ゴルゴ的仕事論」や宮崎駿監督との関係へと話は深まっていきます。

 ――それは何でしょうか?…

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    峯村健司
    (元・朝日新聞編集委員)
    2021年12月29日16時53分 投稿
    【解説】

    興味深いシリーズが始まりました。先日他界された、さいとう・たかお氏は緻密な下調べと深い分析を元にリアルに作品を書き続けました。「2万5千年の荒野」は「福島の原発事故を予見していた」と言われており、今読んでも時代を感じさせません。私の一押しは