半世紀以上連載が続き、単行本203巻、総エピソード数700を超える「ゴルゴ13」。その広大な作品世界を旅する案内役として、多くのゴルゴ関連書籍に携わってきた「最強のゴルゴ通ライター」成田智志さんに、従来の傑作選では取り上げられていなかった作品を「裏・ベスト10」として挙げてもらいました。すれっからしのゴルゴ通も必読のブックガイドです!
【連載】今こそ学ぶゴルゴ13 デューク東郷の教え(全6回)
2021年9月に亡くなったさいとう・たかをさんが残した巨大な遺産にして、現代の古典である「ゴルゴ13」。ゴルゴとはいったい何者なのか。なぜ、私たちは彼に魅了されるのか。半世紀以上ぶれない彼の生き方から、今学べることは何か。プロデューサーの鈴木敏夫さん、作家の佐藤優さん、漫画家の竹宮惠子さん、「ゴルゴ13」唯一の女性脚本家・夏緑さん、最多のゴルゴ脚本を執筆してきたよこみぞ邦彦さん、「最強のゴルゴ通ライター」成田智志さんと考えます。
永遠のテーマはゴルゴへの謝礼
――現在、容易に入手できるベストエピソード集としては「リーダーズチョイスBEST13ofゴルゴ13」(2001年)、「さいとう・たかをセレクションBEST13ofゴルゴ13」(03年)、「改訂版『ゴルゴ13』リーダーズチョイス」(18年)の3冊がありますね。
これらの傑作選に収められているのは「福島の原発事故を予見していた」と評される「2万5千年の荒野」(単行本64巻)、ゴルゴの出自をたどるルーツ編の中でも特に有名な「芹沢家殺人事件」(27巻)など、すでに評価の確立した名作ぞろいですが、ゴルゴの作品群の中には、これらに匹敵する傑作や、「ゴルゴ・ワールド」の奥深さを堪能できる名作・注目作がまだまだ眠っています。
まず挙げたいのが第10位「パッチワークの蜜蜂たち」(134巻)です。現代文明を拒否して18世紀当時の生活を続ける人々が住む米国の「ダッチ・カントリー」を舞台に、織物の一種であるキルトを巡って物語が展開される。マッチョなイメージが強いゴルゴの中にあって、フェミニンな雰囲気が濃厚な異色作ですが、注目されるのは、あのゴルゴが依頼人の女性に対して「わかりました……」「全力を尽くします」と敬語を用いていることです。
――この回の脚本を変更して、ゴルゴに敬語を使わせたのはさいとう・たかをさんご自身だったそうです。
合衆国の大統領に対してもタメ口のゴルゴがなぜ、この女性に対してだけ敬語を使ったのか。謎解きは本編を読んでいただきたいのですが、この回の伏線となる前日譚(たん)「冥王の密約」(139巻)も傑作と呼ぶにふさわしい完成度です。
――第9位にランク入りしたのは「ザ・スーパースター」(28巻)です。これはゴルゴ全編を通じても、特に切ないエピソードの一つですね。
自分に憧れる気の弱い少年ジムにゴルゴは厳しく接しますが、決して邪険には扱わない。そして、ジムの「拳銃の前で顔色ひとつ変えなかったあなたが……ぼくがあとを追った足音でどうして飛び上がったんです?」という問いかけに対して「おれがうさぎ(ラビット)のように臆病だからだ」「だが……臆病のせいでこうして生きている」と本音で答える。ゴルゴの真情の一端がうかがえると同時に、彼が決して冷酷な人間ではなく、見方によってはジムに対して庇護(ひご)者のような感情を抱いていることさえうかがえる。
――そして、ジムの手渡したわずかな紙幣と「宝物の金メダル」を引き換えに、彼の依頼を引き受けますね。
ゴルゴへの依頼には通常、巨額の謝礼が必要なのですが、まれに、取るに足らない報酬で引き受ける時もある。そういうエピソードは「ガリンペイロ」(49巻)、「静かなる記念日」(97巻)など傑作ぞろいです。
一方でゴルゴは、「潮流激(たぎ)る南沙(ナンシャ)―G資金異聞―」(108巻)では、全財産の200億ドルを「ある目的」のため国連に寄付します。ゴルゴはなぜ、ほとんどの依頼で大金を要求するのか――。すべてのゴルゴ好きにとって、永遠のテーマですね。
ゴルゴの行為「鬼畜の所業」か「深謀遠慮の表れ」か
――第8位は、「氷結海峡」(30巻)ですか! ウェブ上では「この話はなかったことにしてくれ……」「個人的にはワースト」など、ファンの非難が集中している問題作ですね。
恋人スージーとの結婚資金を…