「ウォーターボーイズあったら…」窮地の道の駅、飲み会で町職員奮起

寺島笑花
【動画】地域の「ウォーターボーイズ」 元気与えた11年に幕=寺島笑花撮影
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 山口県阿武町ゆかりの人らでつくるアーティスティックスイミングチーム「ABUウォーターボーイズ」が29日、最終公演を迎えた。コミカルなダンスに2メートルを超える大ジャンプ。11年分の思いがつまった演技に、約200人の観客が惜しみない拍手を送った。

 「ウィーアー ウォーターボーイズ!」。温水プールに海パン姿の男たちが並ぶ。表情は真剣そのもの。指先まで意識を向け、機敏な動きでしぶきを飛ばす。

 人口約3100人の阿武町でチームが誕生したのは2011年5月。活動拠点は「道の駅阿武町」併設の25メートルプールだ。当時、利用者は減る一方で、冬は休業していた。飲み会の席で誰かが言った「ウォーターボーイズでもあったらいいんじゃない」という一言に、町職員の石田雄一さん(37)が奮起。「ここでしかできない」。町の交流事業でスノーボードに行った帰り道、バスの車内で映画「ウォーターボーイズ」を上映したり、「ダイエットに良いよ」と口説いたりしながら仲間を集めた。

 11年間で参加したメンバーは延べ30人ほど。ほぼ全員水泳の経験はなく、演技は独学だ。振りはマネジャーがユーチューブを参考につくり、水泳部のシンクロが有名な三重県の鈴鹿高専の演技も見に行った。練習は仕事を終えた午後7時半から。公演2カ月半前の週3~5日、午後10時過ぎまで続く。常にメンバーがそろうわけではない。形にならず、焦ったマネジャーが檄(げき)を飛ばすこともあった。初めは10センチにも満たなかったジャンプは2メートルを超え、100人ほどだった観客は400~500人を動員するまでに。プールは、冬季も開くようになった。

 メガホンを使い、観客がびしょぬれになるほど水を掛ける。踊りながら席まで乗り込んでハイタッチし、公演後は海パンのまま外まで見送る。観客との一体感を大切にし続けた。

 現在は町内外の会社員や海上保安官など19~37歳の12人とマネジャー3人で活動する。しかし、メンバーに子どもが生まれたり、県外に転勤したりして練習量が確保できなくなり、11年の公演活動に区切りをつけることに決めた。

「自分変えたくて」加入した高1

 高校1年だった18年に加入した野村拓未さん(19)は「何をするにも自信が無くて、人の目を気にする自分を変えたくて入った」。自分のダンスで観客が笑ってくれる。公演を重ねるごとに「行動しようと思える気持ちが強くなった」。母の静さん(48)は「表情が変わった。堂々と踊る姿に、大人になったなって。貴重な機会をもらいました」と涙を浮かべた。

 この日の公演は、夜の部のみの予定だったが、応募者が定員の倍以上になったため、急きょ昼の部も行った。長門市の小学6年佐野匠さんは6年前からのファン。「全員が面白くていっぱい水をかけるところが楽しい。最後なのは寂しいけど、かっこよかった」と笑顔。島根県益田市の大庭美保さん(32)は「元気いっぱいの演技にワクワクさせてもらいました」。

 普段の姿は「別人みたいにみんな普通のおじさん」とメンバーの田中輝さん(28)は話す。自身は長門市職員。「大人になるにつれて自分をさらけ出すことが無くなる。大人の本気で、町を動かしたいと思ってきた。人とのつながりの中で地域の良さも再認識しました。今までで一番晴れ晴れした気持ちです」。「メンバーはこれからもそれぞれ必死に頑張る」と石田さん。「その姿から、みなさんの中で何かが少しでも変われば、それが僕たちの一番の幸せです」(寺島笑花)