旧大川小遺族、残した200時間超の動画 「溝」に衝撃受け映画制作

三井新
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 大震災の津波で子どもが犠牲になった旧大川小学校宮城県石巻市)の遺族たちを追ったドキュメンタリー映画の制作が進んでいる。なぜ子どもたちは犠牲にならなければいけなかったのか――。そう問い続け、訴訟を経て次への教訓に生かそうとする姿を描く。来春に完成予定だ。

 監督を務めるのは、映像制作会社「パオネットワーク」(東京都)のテレビディレクターで、再審無罪となった足利事件などを取材してきた寺田和弘さん(50)。今回初めてドキュメンタリー映画の制作に挑んだ。

 東日本大震災の津波で児童や教職員計84人が犠牲・行方不明になった旧大川小を巡っては、市と県を相手取って遺族が起こした訴訟の判決が2019年に確定。学校側の対策の不備が認められた。

 20年夏、遺族側の訴訟代理人だった吉岡和弘弁護士から連絡があった。かつて仕事をした間柄。「裁判の教訓や遺族の思い、子どもたちの記憶を風化させないために何かできないだろうか」と持ちかけられた。

 構想を練るなかで、遺族が撮影してきた膨大な映像記録が残っているのを知った。土砂に埋まった校舎や直後の保護者説明会で話す教員の証言のほか、遺族と市との話し合いが滞るなか文部科学省主導で設置された第三者検証委員会の様子。動画は計200時間分を超えていた。

 これに衝撃を受けた。「自分たちの立場を守ろうとする行政側と、『あの日何があったのか』を知りたい遺族との溝が埋まらない様子が映し出されている」

 当初はゼロから撮影を進める予定だったが、遺族が記録した映像をいかし、遺族らのインタビューを交えて構成しようと考え直した。撮影は今年1月に始めた。

 寺田さんは「なぜ遺族が裁判に至らざるを得なかったのか知って欲しい」と言う。訴訟を起こす人に冷たいまなざしを向ける社会の風潮に一石を投じたかったのだという。

 「事実経過を知るのは、価値があること。遺族が裁判で何を勝ち得て、何を勝ち得なかったか。真実が見えてくるのではないか」

 撮影は来年1月上旬に終わる予定で、来春に完成し、来夏の公開を目指している。映画で取り上げる遺族たちは今も、震災遺構となった旧大川小で語り部活動を続けている。寺田さんは「被災地に足を運ぶきっかけになれば」と話している。(三井新)

「判決がゴールではない」続く語り部活動

 遺族たちによる語り部活動が11月下旬、震災遺構・旧大川小であった。全国から約40人が参加した。

 5年生の次女千聖さん(当時11)を亡くした紫桃隆洋さん(57)らが校舎周辺や裏山を案内。写真を使って当日の様子を振り返り、訴訟に触れた。「学校でたくさんの命が失われたことを改めて皆さんに考えていただければ」と語りかけた。

 紫桃さんは訴訟を終えた今も、語り部を続けている。「判決がゴールではない。娘が生きたかった今を大切に生きて、『未来の命をどう考えていくか』を精いっぱい示していかないと。振り返って話すつらさを分かってもらえれば、未来の命につながるはず」と言う。

 紫桃さんの妻さよみさん(55)はこの日、「残りの人生を娘の分まで、娘が残した何かのために、私は一生懸命生きていこうって、今日ここで確信しました」と言葉を振り絞った。

 また、原告団長を務めた今野浩行さん(59)は「『可哀想』『悲惨』だけを持ち帰るのではなく、命を守る行動、大切な人を守る行動にぜひつなげてもらいたい」と話した。

 今野さんの妻、ひとみさん(51)も「亡くなった子どもたちが戻ってくることはありません。素敵な学校、楽しい場所がなんで悲しい場所にならなくちゃいけなかったのか、皆さんに深く考えていただきたい」と語った。

 今回の語り部は映画制作費を募るクラウドファンディングの「お返し」だ。317人から計約460万円が集まった。

 神奈川県座間市の団体職員、一政伸子さん(58)は防災士として地元で活動。「『遺族になってほしくない』という声を受け止めなくてはいけない。映画は遺族の思いがもっと広がるいい機会になるのでは」と話した。