よみがえった前掛け、映画007に 衰退産業にみたブルーオーシャン
カタタン、カタタン――。愛知県豊橋市の旧東海道の宿場町の一角で、100年ほど前から使われている機械がけたたましい音を立てながら、布を織り上げていく。忙しく動き回る若手の職人は20代だ。
前掛けの企画販売を手がける「エニシング」(東京)が2019年に作った織布工場だ。衰退の一途にあった豊橋の前掛け産業に、新たな息吹を吹き込んだ。
きっかけは20年近く前、社長の西村和弘さん(48)の偶然の出合いだった。西村さんは、「首を突っ込まない方がいい」との職人の言葉にむしろ商機を見いだし、人気ハリウッド映画「007」の衣装に採用されるまでになった。
伝統の品を「売り物」としてよみがえらせた歩みと、その秘訣(ひけつ)を聞いた。
問屋街での出合い
西村さんは会社勤めを経て00年、「日本の伝統や文化を世界に売りたい」と衣料品会社「エニシング」を起業。当初は漢字をプリントしたTシャツを路上で売っていた。
前掛けとの出合いは04年。東京・馬喰町周辺の繊維問屋街で、たまたま目についた。テレビアニメ「サザエさん」で見たことがある程度で、使ったことも触ったこともない。漠然と「日本的だなぁ」と感じた。
ぺらぺらの素材の600円ぐらいのものを買い、試しに「職人魂」とプリントしてホームページに掲載した。意外にも3枚、すぐに売れた。
その後も漢字Tシャツを中心に経営していたが、2年ほど経ったころ、酒蔵から100枚、飲食系の組合から200枚と大口の注文が初めて入った。いつもの問屋に行くと在庫は20枚足らず。次の納期を聞いても「注文はしておくけれど、いつか分からない」と言われた。
西村さんは問屋街を自転車で回って何とか数はそろえたが、仕入れを安定させたいと考えた。豊橋市が産地だと分かり、足を運んでみることにした。
前掛け産業は衰退し切っていた。
衰退産業は「むしろブルーオーシャン」
染め工場の屋根には穴が開き…
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