南部鉄器からギター器具製作 音色忘れられず、岩手に移住

宮脇稜平
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 人口減少が進む東北地方では、移住が地域社会を維持していくための鍵を握る。みちのくの自然や人、仕事に新たな価値を見つけ、移り住んだ人の今を紹介する。

 理想の音がそこにあったから――。

 岩手県奥州市で、「エフェクター」と呼ばれるエレキギターの器具を作る福嶋圭次郎さん(35)は移住の理由をそう語る。用いるのは、南部鉄器平安時代から続く岩手の伝統文化だ。

 グォーン、グォーン。エレキギターの「重い」音が、鉄器工房の上にある作業場に響いていた。福嶋さんの指が弦に触れるたびに生まれる、独特の震えるような音は、ギターとアンプの間にあるエフェクターによって加工されている。

 エフェクターは、電子回路を通じてエレキギターの音色を変化させる器具だ。多くはアルミニウム製の筐体(きょうたい、カバー)で覆われるが、福嶋さんは南部鉄器を使う。アルミ製より「どっしりして太い音が出る」。

 南部鉄器といえば、鉄瓶や急須を思い浮かべる人が多いだろう。重厚なデザインや、熱せられた器具からしみ出る鉄分が特徴だ。

 ただ、福嶋さんが魅力を見いだしたのは、そこではない。「音」だった。

 中学生のときに音楽を始めた。「奏でるより、音作りにのめり込んでいった」。楽器専門誌に影響を受け、高校生のときエフェクターの自作をするように。「どうしたら個性的な音を鳴らせるか」を模索した。

 時は流れ、2018年。たまたまつけていたテレビ番組で南部鉄器を紹介していた。鉄瓶の本体とふたがぶつかる音に、風鈴の音色。「キーン」と波紋が広がるように伸びる南部鉄器特有の響きに、出会った。

 約1年後。勤めていた横浜市の実家の米屋を辞め、その機会に日本中を旅してみることにした。正直、その頃は、楽器作りへの熱は下がっていた。だが、各地を訪ねる中、頭の片隅にずっと残っていた南部鉄器の音色が岩手滞在中に頭に浮かんだ。

 ネット動画で知った「及富(おいとみ)」(奥州市)に見学を頼んだ。真っ赤に熱された鉄が形作られる作業を目にした。あの音を思い出した。

 南部鉄器で楽器を作りたい。それまで言えなかった思いを口にすると、及富は「うちで作ってみる?」と応えてくれた。南部鉄器でエフェクターを作ると決心。19年7月に移住した。

 試行錯誤が始まった。鉄瓶に代表されるように南部鉄器は曲面が多い。一方でエフェクターは四角い。厚さが均一にならないなど苦労が重なった。型の角張っているところをゆるやかにし、鉄を流す速度をはやくするなど何度も試した。半年後の20年1月、なんとか製品化にこぎ着けた。

 日々技術を教えてくれるのは及富の職人たちだ。「やりたいと言うと、いろんな人が応援してくれる」。技術力を持つ同社の支えがあって、いまがある。「移住して良かった」。実感した、岩手の人のあたたかさに顔をほころばせる。

 いまや国内のほか米国や台湾などでも人気だ。工芸品として評価され、楽器を使わない人からの注文もある。「楽器と南部鉄器。両方の可能性を広げたい」

 移住者がもたらした新しい音が東北に響いている。(宮脇稜平)

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 〈南部鉄器〉 炭素を含む「銑鉄(せんてつ)」を主原料として作られる。岩手の盛岡市と奥州市が産地で、それぞれ別の起源がある。盛岡では17世紀ごろから茶の湯釜として使われた。奥州では平安時代に藤原氏が武具などを作らせたのが始まりとされる。鉄瓶や急須が代表的で、湯を沸かすと鉄分が溶け出してまろやかになるとされている。最近ではフライパンやキャンドルスタンドなどにも活用される。

 現在も、昔ながらの伝統的技術で、一つ一つ手作りで製造されている。1975年には国が定める「伝統的工芸品」に選ばれた。