店頭から流された重さ800キロの玩具 奇跡の発見は絵本になった

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長妻昭明
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 熊本県を中心に甚大な被害が出た2020年7月の記録的豪雨から、今月4日で1年半になる。被災直後、希望の光がさす出来事があった。過去に災害に遭った人から差し伸べられた手もあった。経験は一冊の絵本になり、人びとに伝えられている。

 絵本「川があふれた! まちが沈んだ日 生きる力をくれたキジ馬くん」の原案をまとめた本田節さん(67)は、熊本県人吉市郷土料理店「ひまわり亭」を営む。豪雨に襲われた20年7月4日、市内を流れる球磨(くま)川が氾濫(はんらん)し、川沿いの店は約2メートル浸水した。気が動転していた本田さんは、4日後になって、店頭にあった「きじ馬(うま)」が流されたことに気づき、がくぜんとした。

 きじ馬は、鳥のキジを模した胴体に車輪が付いた木製の郷土玩具で、子どもの成長を願う縁起物として人吉で伝わる。手のひらサイズが一般的だが、本田さんは1998年に店をオープンした時、長さ4・5メートル、重さ800キロの巨大きじ馬を特注した。

 店の「守り神」として大切にし、常連客や近所の子どもたちから「きじ馬くん」と親しまれていた。本田さんも「きじ馬くん、おはよう」と毎朝声をかける存在になっていた。

 家々が全壊するほどの濁流で、粉々になってしまっただろう――。家を流され、家族を亡くした人もいる中で、飲食店経営者としてできることを考えた。使っていたキッチンカーが無事だったため、炊き出しで各地を回った。

 きじ馬を忘れようと、努めて明るく振る舞ったが、心身がすり減った。限界を感じていた7月15日、知人から「きじ馬が見つかった」と連絡を受けた。店から約60キロ下流の八代海の漁港に浮いていたという。翌日、クレーンで引き上げられ、本田さんの元に帰ってきた。車輪が無くなっていたが、大きな損傷はなかった。その姿を見た瞬間、奇跡的に我が子が戻ってきたようで、涙があふれた。常連客や近所の人も「勇気が出た」と泣いた。

東日本、阪神の被災者とつながった

奇跡的に見つかった「守り神」。この絵本の作画を引き受けたのは、東日本大震災で被災した画家でした。彼もまた、阪神大震災の被災者に助けられた経験がありました。

 炊き出しに回った先々で、う…

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