私が「声」をみつけるまで 米作家レベッカ・ソルニットさん

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構成・板垣麻衣子
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 歩くことと思考の人類史をたどる『ウォークス』(左右社)や、自然災害時に一時的に生まれる理想共同体を論じた『災害ユートピア』(亜紀書房)など幅広いテーマのエッセーで知られ、「マンスプレイニング」の語源にもなった『説教したがる男たち』(左右社)以後はフェミニズムの旗手としても注目されているノンフィクション作家レベッカ・ソルニットさんの初の自叙伝『私のいない部屋』(左右社)が刊行された。父親のDVから逃げるように家を飛び出し、暴力・ハラスメントをくぐり抜け、作家としての「声」を見つけるまでの道のり――。邦訳刊行を機に、メールでの書面インタビューに応じた。

 

Rebecca Solnit 1961年、米カリフォルニア生まれ。作家、歴史家、アクティビスト。88年より文筆活動を開始。『災害ユートピア』『ウォークス』『説教したがる男たち』など著作多数。

 ――女性が生きる上で直面する暴力やハラスメント、社会から信用されない存在とみなされている感覚、それらを内面化することからくる自信喪失が生々しい筆致でつづられています。ご自身の半生について書こうと思ったのはなぜですか? 過去のつらい出来事を思い出すのはどんな作業でしたか?

 「私はこれまでにも女性への暴力について書いてきましたが、一般的な状況やニュースになっている事件について書く文章には何か重要なものが欠けていると感じました。暴力にさらされて生きることが、人の心に何をもたらすのか。それを表現する一番の方法は、自分自身の経験を語ることでした」

 「私の経験はごく平均的なものだとは思います(つまり、私は女性への暴力というものを嫌というほど経験してきましたが、それは多くの人についても言えることだと思っています)。もし、何年もそのような経験について考える機会がなかったとしたら思い出すのは苦しいことだったかもしれませんが、そういう体験はずっと消えずに私の中に残っていました」

 ――恋人に別れを切り出して逆恨みされ、刃物で何度も刺されたという友人女性から書き物机を贈られたエピソードが出てきます。この机は今でもありますか?

 「持っています! もう40年もこの机で書き続けていますし、その友人とも定期的に連絡を取り合っていますよ。この本を書き始めたときに、その友人は自分の身に起こったことの全容を話してくれました。恋人だった男に刺されたこと自体は知っていましたが、刺されて瀕死(ひんし)状態になったあとの、警察や大学、周りの男性たちの冷酷さには恐怖を覚えました」

 「『私がこれまでに書いてきたものはすべて、恋人と別れようとしてその男から殺されかけた女性からもらった机の上で書かれたものだ』と気づいたとき、私のこれまでの執筆活動はすべて、彼女が感じた無力さ、死の間際まで追い詰められた経験を、何らかの形で埋め合わせ、克服しようとする試みだったのだと感じました。かつての私の声なき声だけでなく、彼女の声なき声もまた、現在の私の声の出発点なのです」

写真・図版

 ――今回の自叙伝の原題“Recollections of My Nonexistence”には、女性が「存在しないこと」(nonexistence)、すなわち沈黙し、従順にふるまい、男性に場所を譲ることを求められる社会への洞察が込められています。居場所のなかった若い頃の自分自身に向けて書いているという気持ちはありましたか?

自身も1980年代からアクティビストとして活動してきたソルニットさん。インタビューの後半では、ブラック・ライブズ・マターや#MeToo運動など、近年の人権意識の高まりに共感を寄せつつ、「5年後の世界」への想像力について語ります。

 「この本は、不安を抱えた若…

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