人生120年?「命の時間」の錯覚と凝視する心 穂村弘さん
言葉季評
タクシーの中で、テレビ画面に流れる広告動画をぼんやり眺めていた時のこと。
「〇〇を選んだ理由は120歳まで生きたいから」
ミネラルウォーターのコマーシャルらしい。若い男性のタレントが真面目な顔で語っていて、おっ、と思った。そうか、とうとうそこまで来たのか。そこまでとは、人間の寿命についての意識のことである。
1962年生まれ。歌人。エッセーや評論、絵本も。著書に歌集「シンジケート[新装版]」「鳥肌が」「絶叫委員会」「短歌の友人」など。
幼い頃、私は「巨人の星」という野球アニメに熱中していた。その中で、主人公である星飛雄馬の父一徹が、こんなことをいっていた。
「人生60年というが……」
1960年代終わりごろの、平均寿命についての一般的な認識は、それくらいだったのだろう。
だが、その何年か後に始まった別の野球アニメ「男どアホウ!甲子園」の主題歌の歌詞には、「どうせ人生 七十年だ」という一節があった。初めて聞いた時、あれっ? と思ったものだ。「巨人の星」から、10年延びてるじゃないか。
実際に、日本人の戦後の平均…