第3回「病気が遺伝した子どもは不幸?」筋ジス女性が1年限定で挑んだ妊活
遺伝性疾患である筋ジストロフィーの木戸奏江さん(28)は2020年夏、出産を考えはじめていた。
だが、同じ患者が集うSNSのコミュニティーで投げかけられた言葉に、目が釘付けになった。
「もし子どもに遺伝していたら、子どもから恨まれるのも当然と思わないといけない」
出産を否定されたように感じ、怖く、悲しかった。
私は色々なことを考えて決断しようとしているのに。産んだ後にまで、こんな言葉を掛けられたら、心が負けてしまう。
自分がリアリティーを感じられる反論を持たなければならないと思った。
4回連載の3回目、出産を考え始めた木戸さんは、考えた末に決断します。
これまで生きてきた過程を振り返って考えてみた。
子どもに病気が遺伝したら、その子は不幸なのだろうか。
いじめや就職、移動のしづらさという問題があったとしても、それはその人が生まれたことに原因があるわけではない。
私もできないことが増えてきたけれど、できなくなったからこそわかる生活の方法や希望がある。
体が動かなくなって初めて、やりたいことの本質を考えぬき、それをかなえようと工夫して生きてきた。
障害があって、生きるのがつらいと感じる人がいるのもわかる。
けれど、病気や障害者になったという理由だけで、生きている価値がないとか、不幸だと決めつけるのはナンセンスだ。
私はできることをたくさん失ったけれど、できないからこそ得られたものも同じようにたくさんある。
もう一つ考えたのは、これからのことだ。
社会も進歩、結論へ
私たちを取り巻くテクノロジー、医療技術は日々進化している。
これまで治療法が無かった筋ジストロフィーだって、20年後には有効な薬ができている可能性がある。
私は会社の理解もあって働くことができているし、目の動きなどで遠隔操作できる「OriHime(オリヒメ)」のようなロボットもある。
科学技術は進化して、生まれた子どもが大人になるころには、もっと働きやすくなっているはずだ。
これまで自分が困難に直面した時と同じように、客観的に、分解して考えた。
気持ちが固まったころには、夫のよしゆきさんにも気持ちを伝えた。
「自分で産みたいかもしれない」
期限は1年
よしゆきさんは妻が出産について調べていることは知っていたが、不安を感じた。
産後、妻にできる育児がどんなものか、わからない。仕事と育児が自分にのしかかり、手に負えなくなったらどうしよう。
でも、妻の気持ちは尊重したい。
2人で、行政の子育て支援や障害者福祉の制度を調べてみると、家事や育児のヘルパー支援が受けられるとわかり、希望が持てた。
「チャレンジしてみよう」
木戸さんの体力がある間に出産するため、1年間という期限をつけた。
妊活を進めると、驚くほど早…