空気までこごえる冬の日に、ぽっと色を差す「寒椿(かんつばき)」が1月のお菓子です。
米の粉から作る外郎(ういろう)生地は、すりガラスのようになめらかな肌で、味わいはやさしく、それでいて歯切れがいい。大胆なデフォルメによって咲いた花がほほ笑むようにも、凜(りん)と横顔を向けるようにも受け取れます。食べる人があって和菓子は完成すると作り手はいいますが、淡い色の椿に何を思うか、相手に答えをゆだねることも、デザインの一部なのでしょう。
椿は静かさと力強さを併せ持ち、時代を超えて愛されてきました。デザイナーのココ・シャネルもそのひとりで、白いカメリア=椿を自身のスタイルの重要な表現として取り入れます。京都服飾文化研究財団名誉キュレーターの深井晃子さんは「東洋の文化に美を感じるとともに、椿が真冬に咲く花だったことに意味があると思います」。
日本の椿がヨーロッパに紹介されたのは江戸期、「日本のバラ」とたとえられ、後にブームとなります。「バラは王室など権威につながり、穏やかな春や秋に咲く。貧しく生まれ逆境を生き抜いてきたシャネルにとっては、厳しい冬の寒さのなか華麗に花開く椿こそ、自分だと思えたのではないでしょうか」
かつて西欧の人びとを魅了したジャポニスムの本質を、深井さんは「見過ごしている自然へのまなざしの深さと洗練もその一つ」だったといいます。シャネルが和菓子の椿を見ていたら……想像がふくらみます。(編集委員・長沢美津子)
1月のおかし
銘 寒椿 上用粉(きめ細かな米粉)と砂糖を蒸して作る外郎(ういろう)製で中は白あん。
協力:今西善也 京都祇園町「鍵善良房」15代主人、美術館「ZENBI」館長。館では「美しいお菓子の木型」展を開催中。
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