「核兵器の苦しみ、想像を」 広島・長崎市長が世界に向けて動画
国際NGO・平和首長会議は7日、会長の松井一実・広島市長と副会長の田上富久・長崎市長が核不拡散条約(NPT)加盟国に向けて英語で語る動画をホームページ(http://www.mayorsforpeace.org/jp/)で公開した。コロナ禍で今年1月の開催予定が延期されたNPT再検討会議では、被爆者の苦しみに思いをはせ、核軍縮を確実に進展させるよう訴えた。
動画は計5分弱。松井市長は昨年10月に96歳で亡くなった広島県原爆被害者団体協議会前理事長の坪井直(すなお)さんに触れ、「生涯にわたり勇気をもって核兵器廃絶のために尽力された」とたたえ、「被爆者の『こんな思いを他の誰にもさせてはならない』という深い信念を決して忘れてはならない」と語った。
今の国際情勢については「被爆者の長年の切実な訴えとは真逆の状況」とし、国家間の覇権争いが「核軍拡競争へとつながり、多くの生命を危険にさらしている」と指摘した。
核保有国と非保有国の対立に陥りがちなNPT加盟国には相違点を乗り越えた対話を求め、「被爆者の苦悩を和らげ、核兵器がもたらす重大な脅威を排除するための具体的な対応」を盛り込んだ最終文書を再検討会議で採択するよう求めた。
田上市長は、長崎で17歳の時に被爆した山口カズ子さんの詩を盛り込んだ。
「幾千の人の手足がふきとび 腸わたが流れ出て 人の体にうじ虫がわいた 息ある者は肉親をさがしもとめて 死がいを見つけ そして焼いた 人間を焼く煙が立ちのぼり 罪なき人の血が流れて浦上川を赤くそめた
ケロイドだけを残してやっと戦争が終わった
だけど…… 父も母も もういない 兄も妹ももどってはこない
人は忘れやすく弱いものだから あやまちをくり返す だけど…… このことだけは忘れてはならない このことだけはくり返してはならない
どんなことがあっても……」
田上市長は「想像してください。核兵器がどれほど人間を苦しめたのか」と続け、「この惨劇は核兵器が存在する限り、誰の身にも起こりうる」と訴えた。そして、「核兵器による危機感が増している今、NPT再検討会議が、現在と未来への責任をどのように果たすのか。『人間の安全保障』の視点に立った議論を深め、核軍縮を実質的に進展させる最終文書の合意に至ることを切に願う」と述べた。(福冨旅史)