第46回上京するには受験しかなかった テレ東「来世ちゃん」プロデューサー

聞き手・桑原紀彦
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 小学生のころから、東京のテレビ局で働くのが目標でした。テレビっ子で、当時放送していた「アメリカ横断ウルトラクイズ」が特に大好きで。親からは、東京のテレビ局でないとああいう番組は作れない、と聞かされていた。実家は田んぼに囲まれた田舎。ここから何とかして上京したい、そのためには大学受験しかない、と早くから思い定めました。

 高校は演劇部で、3年の夏まで打ち込みました。裕福ではなかったので、志望校の選択にあたって私立大は難しい。では、国公立大なら一橋、学部はよく分からないけどテレビ局に入れそうなのは社会学部、と決めました。成績は、学年の真ん中くらい。数学が苦手だったので高望みでしたが、受験勉強は頑張りました。

そぶえ・りな

1984年生まれ、岐阜県出身。一橋大社会学部卒。2008年にテレビ東京入社、18年から現職。手がけたドラマは、性に奔放な女性を描いた「来世ではちゃんとします」、中年女性と父親の関係を描く「生きるとか死ぬとか父親とか」など。

 英語は、私の高校の伝統で、1年生のときに英作文の問題集のセンテンスをひたすら丸暗記させられるんです。これが、後になって文法や構文を習うと、体系的に理解できるようになって役立ちました。日本史は、大河ドラマのムック本で俳優と歴史上の人物を組み合わせて覚えて。数学は参考書「チャート式」を反復したけど、できなかったな。自然豊かな土地だったので、生物は楽しく勉強しました。

TV局のドラマ見て「こうなるために頑張る」

 当時、東京のテレビ局を舞台にした「美女か野獣」というドラマを見て、「将来こうなるために今、頑張るんだ」という最高のモチベーションにしました。しかし、成績は合格圏ギリギリまで伸びたのですが、現役時は不合格。諦める発想はありませんでした。浪人したい、と両親に相談したら「いいよ」と。後で聞くと、特に父は私に地元にいてほしかったようで、それでも再挑戦を認めてくれたことに、本当に感謝しています。

 浪人中は背伸びして東大を目標にしました。実家から名古屋の予備校に通い、授業に食らいついていく日々。見たいテレビ番組だけは見ると決めて、それ以外はずっと机に向かいました。でも、成績はあまり変わりませんでしたね。当時の大学入試センター試験がうまくいかず、前期日程の東大は失敗。後期で一橋に受かりましたが、現役時より高みをめざしたことで合格できたのだと思います。

考えたことのない知識、大学に

 大学はテレビ局就職のための通過点、くらいにしか思っていませんでしたが、授業がとても楽しかった。特に印象深いのは、ジェンダー論です。男と女の2種類しかない、という固定観念が覆された。身体的な性別の男女、社会的な性別の男女、性的指向の男女の区別があり、さらにそれも二つじゃなくて濃淡のグラデーションがある――。それまで考えたこともなかった知識との出会いがあった。

 大学でも演劇サークルで、脚本を書き舞台に立ちました。「なぜ女性は下ネタを話してはいけないの」という怒りがあり、女性の性に関する劇を作ったりしていました。こうした勉強や、サークル活動が今のドラマ制作の根底にあります。

 これまでの人生で出会えなかった知識が得られるのが、大学という場所です。知らないことを知る、ということはとても楽しい。世界が広がる。女子は、浪人を親から反対される人がいるかもしれません。でも、自分の希望があるなら、勇気を出して説得してほしい。頑張って闘ってほしい。(聞き手・桑原紀彦)

     ◇

 〈そぶえ・りな〉 1984年生まれ、岐阜県出身。一橋大社会学部卒。2008年にテレビ東京入社、18年から現職。手がけたドラマは、性に奔放な女性を描いた「来世ではちゃんとします」、中年女性と父親の関係を描く「生きるとか死ぬとか父親とか」など。

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    曽我部真裕
    (京都大学大学院法学研究科教授)
    2022年2月7日12時55分 投稿
    【提案】

     記事内容の本筋に関係の薄いコメントで恐縮ですが、首都圏で育ち、「地方」に転じた者として、以前から紙面での「上京」という言葉の使い方には気になっていました。  自らの経歴を振り返る中で、田舎から自己実現を夢見て「上京」した、というこの記事

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