土石流の日、避難所へ 熱海の中学生が悩みながらラジオで話したこと

魚住あかり
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 静岡県熱海市に中学2年生のラジオパーソナリティーがいる。毎月1回、1時間、コミュニティーFM局から音楽や身近な話題を届ける。しかし熱海土石流から半年を迎えた新年の放送分は、いつもと少し違っていた。

 「新年あけましておめでとうございます。2022年最初のフリースタジオ796、『たっくんラジオ』始まりました」

 軽快なオープニングテーマに乗せて大森匠真(たくま)さん(14)が語り始めた。市立熱海中学校の2年生。地元の「エフエム熱海湯河原」で毎月第二土曜日に放送されている60分番組『たっくんラジオ』のパーソナリティーを務めている。

 きっかけは2016年、小学生の時に参加した「縄跳び大会」だ。同局に取材を受け、ラジオに興味を持った。番組を聴いてはメッセージを送り、時には熱海駅構内のスタジオを訪ねた。そんな大森さんに番組出演者が、リポーター役を依頼したことがはじまりだ。

 昨年末、新年最初の放送(8日)の収録があった。今回、大森さんは話そうと心に決めていた話題があった。昨年7月に地元を襲った土石流についてだ。

 「僕は避難場所となった熱海中の体育館にいました」

 オープニングが終わると、大森さんは静かに話し始めた。

 あの日、週末で自宅にいた大森さんが最初に土石流を知ったのは、テレビのニュース速報だった。状況がのみ込めないまま被災した伊豆山地区に住む友人に連絡すると、スマホに画像が送られてきた。友人宅から数メートル先まで迫った土砂が写っていた。直後、別の友人から届いた動画に目を疑った。土砂が家をなぎ倒し、激しい勢いで流れ下っていた。

 身近で起きている災害に、じっとしていられなかった。「ボランティアをさせてください」。知り合いの町内会長に頼み込み、避難所となった熱海中学校に向かった。

 体育館に避難していた約40人に備蓄されていた食料や毛布を配った。クラスメートに「大丈夫?」と声をかけると、少しだけ笑顔を見せた。みんな学校に来られるのか。家がなくなった人はどうやって生活するのか。心配は尽きなかった。

 自分にできることはないか。考えた末、ラジオで被災者の声や自身の体験を少しだけ紹介したが、迷いもあった。「つらい記憶を思い出させてしまうのではないか」。収録で話すのは1分が精いっぱいだった。

 3日で災害から半年が過ぎた。少しずつ復旧が進み、土石流が話題になる機会も減った気がする。一方で、今も住民1人の行方がわかっていない。災害の検証もこれからだ。

 今回の災害で備えの大切さを学んだ。日頃からの人とのつながりも防災の一つだと知った。つらい記憶だけど忘れてはいけない。悩みつつも、そう思うようになった。

 収録では楽天・田中将大投手が始めたチャリティーオークションなどを紹介し、寄付を呼びかけた。「たくさんの義援金ありがとうございます。これからも伊豆山の方のためによろしくお願いします」

 この日の収録では、土石流について約2分話した。

 新年最初の放送は、8日午後9時からエフエム熱海湯河原(周波数79・6MHz)で。放送エリア外では、インターネットでも聞くことができる。(魚住あかり)