こけて半世紀 「新婚さん」のあのイスの余生は 文枝さん「家宝に」

土井恵里奈
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 桂文枝さんがまさかの勇退――。となると、気になるのがあの白いイス。文枝さんと一緒に転がり続けてきた影の立役者だ。

 半世紀以上続く長寿番組「新婚さんいらっしゃい!」の司会が交代することになり、1月7日、文枝さんが会見に臨んだ。

「いらないなら私が」

 報道陣から、イスの今後について質問が出た。文枝さんは「どうなるんですかね(笑)。それは次の司会者の方が、このまま使いたいとおっしゃるならば使っていただくのが良いと思いますし、いらないとおっしゃったら私が引き取りたいと思います」と答えた。

 イスの歴史は長い。京都・太秦の小道具の老舗・高津商会を通してやって来て、長年番組に鎮座。手厚いメンテナンスのおかげでアンチエイジングしてきた。時にはスタジオの外へ飛び出し、フランスカナダベトナムなど海外収録にもお供した。空港で「なぜイスを持ち込むのだ」といぶかしがられようが、番組の名物なのだからしかたない。

 デザインは1970年代にはやったもので、決して令和の今風ではない。妙に丸っこく、ずっこけやすい形をしている。どっしりと安定したイスではなく、けったいな個性派だけれど、それがやけに番組に溶け込んでいた。

己を下げてオチる関西

 これまでにコケた回数は約1万回に上る。「新婚さんは素人さんですので、なにしとんねん、ええかげんにせえというきつい言葉で突っ込めない。代わりにひっくり返ってきた」

 イスコケは、「んなアホな!」というツッコミの代わりだった。とんでもない夫婦たちの恥ずかしくもおかしい話のお返しとして。人様の家庭を笑う傑作の技。他人を傷つけず、見下さず、己を下げる笑都大阪の知恵が詰まっている。

 これから先、イスがどうなるのかは分からない。でも、唯一無二の存在であることに変わりはない。この日、文枝さんは言った。もし引き取り手がなければ「家宝にします。母の仏前に供えたい」。

 会見では、半世紀にわたる番組の思い出がこみ上げ感極まる姿を見せつつ、やはりそこは大阪の芸人。最後はイスから転がるリアクションでオチをつけた。(土井恵里奈)