お客の電話に「がっかりするよ」と警告、でも…「超ぬる湯」お目当て

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星井麻紀
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 湯に手を入れ、思わず「冷たい!」と声を上げてしまった。湯温32度。冷たいと言うよりは「すごくぬるい」か。東吾妻町にある松の湯温泉の一軒宿「松渓館」は、温水プール並みの「超ぬる湯」で有名だ。

 「小さいころから入っているから、私は何でもないけどね。初めての人にはちょっと冷たいかな」と湯守の小池勝良さん(76)。浴槽は、4人も入ればいっぱいのサイズだが、冷たいと感じる人のために内部を区切って、40度に加温した湯も張っている。これを交互に入るのが「通」らしい。湯船からはドバドバと、もったいないくらいの勢いで、掛け流しの湯が流れ出ている。湯は透明で、やさしく硫黄が香る。

1日に1組か2組

 小池さんの家に伝わる県の「温泉利用許可証」によれば、温泉は明治18(1885)年6月10日、勝良さんの4代前の小池金次郎さんが開設した。金次郎さんは、山向こうの中之条町・沢渡の医者に「弟子入り」し、帰郷してこの温泉と簡単な診療所を開いたらしい。

 2代目は大工、3代目は材木商、4代目は公務員、そして5代目の勝良さんも2006年に退職するまで東吾妻町の職員という「本業」があり、旅館経営は代々、妻が担ってきた。勝良さんの妻すみ子さん(72)も、1975年の結婚以来、ほとんど一人で切り盛りする。「温泉のことも、何もわからないで始めたので、気楽だったんじゃないかしら」とすみ子さんは笑って振り返る。

 客室は5室あるが、「きちんとできる範囲で」と1組か2組しか取らない。風呂は部屋ごとの貸し切り。食事も部屋ごとで、ほかの客と顔を合わせず、のんびりできるのが売りだ。「でも、サービスは足りないくらいよ。うちは、放っておかれたい人向き」とすみ子さんは言うが、地元の山菜や野菜をたっぷり使い、群馬特産のこんにゃくは手作りという丁寧な料理で、旅人をもてなす。

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