まちおこしの最前線はデジタル、距離と空間を超えて「ファン」拡大

宮坂知樹
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 人口が減っても、まちの活気を残したい――。遊びながら働ける観光地作りや、インターネットを通じて世界中に「住民」を作ろうとする動きが新潟県内で進む。まちおこしの活路を、デジタルに見いだそうとしている。

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 目の前にたき火。アウトドア用のいすに腰掛けて、脇野寛洋さん(45)はパソコンを開いた。画面の中で話しかけてくる取引先の担当者は「ワーケーションですか?」。和やかな雰囲気の中、脇野さんはオンラインで自社商品の使い勝手について意見を聞いた。

 東京都内のシステム開発会社に勤める脇野さんは昨年11月、新潟県西部の妙高市を同僚ら4人と訪ねた。休暇を楽しみながら仕事をするワーケーション。勤務先が5年ほど前から奨励しており、今回は同市が企業向けに催している「ワーケーションプログラム」のモニターツアーに参加した。

 ワーケーションは同市が地域振興策として力を入れる分野だ。温泉やスキー場、北陸新幹線の駅も近く、新型コロナ前の2019年には年約561万人の観光客が訪れた。市はさらに、定期的な訪問者を増やそうと、市内の交流施設に無線LANやプロジェクターなどを整え、「働ける環境作り」を続けてきた。

 市が企業向けのワーケーションプログラムを始めたのは2年前。登山やトレッキング、スキー、温泉巡りなど企業側の希望を市のコーディネーターの竹内義晴さん(50)が聞き取り、オーダーメイドでプランを作る。合間に企業のセミナーや、社員同士が議論する場などを設ける。

 新型コロナ禍で同市の観光客は20年に前年比約70%に減ったが、市のプログラムにはこれまで約30企業が参加。ワーケーションが観光を補う存在となる兆しがある。

 さらに市は、訪問客の増加にとどまらない効果を狙っている。「妙高の『ファン』を増やすこと。企業の拠点誘致や観光で再び訪れていただくきっかけにしたい。最終的には市内への移住促進にもつなげられれば」と市企画政策課の岡寺莉子さんは狙いを語る。

 また、首都圏など大都市部で働くビジネスパーソンに訪問してもらい、企業の技術やノウハウをいかしたビジネス展開の創造にも期待している。昨年度、大企業と地元の企業・行政が政策について議論する「みょうこうミライ会議」も始めた。20年度はダイハツ工業や日本マイクロソフトなどが参加した。

 ワーケーションで訪れた脇野さんも、妙高市内の企業のデジタル技術による業務効率化を、自社の人材教育システムを用いて、ワーケーションに訪れた企業に体感してもらうビジネス案を、3日間の滞在最終日に市に出した。妙高を訪れる企業のアイデアを地元企業に還元しようとしている。「地方の課題解決に協力したい思いはあったが、実際に来てみて、何を悩み、何を必要としているのかが分かった」と脇野さんは話した。

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 地域の「ファン」をデジタル空間に求める試みも始まった。

 「次に日本に旅行に行ったときは、山古志に行きたいです!」「錦鯉もまだ見ぬ山古志も好きになってきました」

 新潟県中部、長岡市山間部の山古志地域(旧山古志村)の住民らが先月作ったコミュニケーションアプリのグループ内に、山古志への思いが日本語や英語で次々と投稿されている。書き込んでいるのは、ネット空間にできた“もう一つの山古志村”の住民らだ。

 「住民」になるには、まず山古志の特産「錦鯉」を描いたデジタルアートを買う。鯉の色や数などが全て異なり、「非代替性トークン(NFT)」という技術で「一点もの」だと証明されるもので、取引には「イーサリアム」という暗号通貨を用い、価格は1枚0・03イーサ(約1万1千円)だ。

 仕組みを作ったのは、山古志の住民らによる「山古志住民会議」というグループ。一時は「全村避難」も強いられた04年の中越地震からの復興を目指して、地域内外の交流や地域振興の議論を仕掛けてきた。

 デジタル空間で新たな試みを始めた理由を、代表の竹内春華さん(41)は「山深く雪も多いが、人は少ない。そんな山古志がただ長岡市のお荷物になるのではなく、財源と知恵、仲間を独自に作り出せるようにしたい」という。

 山古志は人口が震災前の半分以下の約800人にまで減り、高齢化率も50%超。減っていくヒト、カネ、アイデア。広く募る活路をデジタルに求めた。

 錦鯉のデジタルアートは転売もでき、その際、価格の約10%が住民会議に還元される。世界に知られた錦鯉だけに、アートが高額で取引される可能性もあるとみる。

 そして、仲間と知恵。国境を越えて「村民」を集めようとサイトの言語は英語にした。開設から1カ月弱。約500人の村民は投稿による会話を始め、錦鯉アートの買い方を説明する動画も村民が制作した。

 住民会議は、錦鯉アートによる収益をサイトの開発だけでなく除雪や草刈りなど実際の山古志の整備費にも充てる。「投資家など、これまで関わりのなかった人が山古志のファンになるきっかけにしたい。人、物、情報、金が世界中から集まる、その第一歩がデジタル住民票です」と竹内さん。ゆくゆくは、山古志を象徴する棚田や山並みをネット上の仮想空間に再現したいとも考えている。=おわり(宮坂知樹)

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 人口減が進む新潟 国勢調査によると、2015年に230万4264人だった県人口は、20年は220万2358人。10万1906人の減少数は北海道に次いで全国で2番目に多い。

 県内を市町村別にみると、外国人労働者が増えている聖籠町以外の全市町村で人口が減った。新潟市の減少数は、全国の市町村の中では北九州市に次ぐ多さだった。