我が子が理不尽な目に遭ったなら…人生の荒波を乗り越える力を備える
我が子が理不尽な目に遭わされたら、親としては心配ですね。世の中には理不尽なこといっぱいあります。どうしたらその荒波を乗り越える力をつけてくれるのか。臨床心理士の中島美鈴さんが解説します。
ADHDの主婦リョウさんには、小学生の娘がいます。
今日から少しの間、ADHDママの子育てについて書いていきたいと思います。
というのも、ADHDをもつ女性で、母親になった後で、「自分の暮らしだけでも大変なのに、子どもの面倒まで見るなんて無理!」という悲鳴をよく耳にするからです。
リョウさんもまた、子育て奮闘中のひとりですが、我が子が小学3年生にもなると、また別の難しさを感じているようです。
公園で待ちぼうけの娘
娘「今日ね、公園で遊ぶ約束したのにね、Aちゃん、20分も遅れてきたんよ」
聞けば、娘はこんなに寒い公園で、20分間凍えながらうろうろしながら待っていたとのこと。約束した時間通りに行こうと宿題もせずに慌てて行ったのに、です。
娘は不満げな顔をしています。
みなさんが親ならどうしますか?
娘と一緒になってその友達Aにイライラしますか?
「そんな約束も守れない人とは友達をやめてしまえ」といいますか?
言い方はもっとソフトかもしれませんね。
「もっと約束守れるお友達と遊んだら」ぐらいでしょうか。
我が子が待ちぼうけなのをふびんに思って言ってしまいたくなるかもしれません。
中には「多少相手が遅れてきても、我慢だよ」と感情を抑圧するようにいう人もいるかもしれません。
「20分も遅刻してるよって文句いったらいいじゃん」と主張するようにいう親もいるでしょう。
子育てってどれが正解なんでしょう。
リョウさんだけでなくみんなそれぞれやり方があります。
今日伝えたいのは、子どもが理不尽な目に遭ったときに、どう対応するかについてです。まずはリョウさん親子のやりとりをご覧ください。
リョウ「寒かったろう。かわいそうに。」
娘 「手がこんなになった。(赤くなった指を見せる)」
リョウ「ほんとはどうしたかった?」
娘 「いっぱい遊びたかった。ちゃんと約束どおりきてたらもっと遊べたのに。」
リョウ「そうかあ。いっぱい遊びたかったね。」
リョウさんは娘をひざにのせて続けました。
リョウ「友達と遊んでるとさ、楽しいことばっかりでもなくて、時々こういうことあるよね。」
娘 「ママも?」
リョウ「そう。楽しいことと同じぐらいけんかしたり、ちぇって思ったり、いろいろあるわ。」
娘 「そうなんだ――!なんでママはそれでも仲良くするの?」
リョウ「まあ、そういうもんかなって思いながらつきあうのよ。いいことばかりじゃないってわかってるの。今日みたいにやな日もあるのよ。でもそれでも友達がいてママはよかったなあ。」
娘 「そうなんだあ。」
社会に出るともっと理不尽
いかが思われましたか?
私たちは、生まれて最初に経験する社会が家庭です。
この家庭で、兄弟間などでお母さんが自分の言い分だけ聞いてくれないとか、兄弟を比較されるとか、えこひいきされているとか、そういう理不尽を経験することもあるかと思います。
少し大きくなると、幼稚園や保育園、小学校などで家庭の外の社会を経験します。多くの場合、家庭内よりももっと理不尽が増えるでしょう。
やがて社会に出ると、頑張ってもいつも評価されるわけではないこと、いつもみんな平等ではないこと、永遠に続くわけでもないことなどを次々に経験するでしょう。
こうした人生の波をどうにか乗り越えて、生き抜く子どもを育てる必要があります。
そのゴールを目指すには、どこかで
「世の中にはどうにもならない理不尽なことがある」
「その理不尽の解決を目指せず、自分がどう受け止めるかを工夫することもできる」
「人間関係はいろいろあるけど、切り捨てて世界を狭めるより、いいもんだ」
こんなことが伝わればいいなと思っています。
そのために、
娘の残念だった気持ち、悔しい気持ちを一緒に抱えてあげる
娘のその友達ともっと遊びたい気持ちのために何ができるか一緒に考える
このあたりが親にできることでしょうか。
続きです。
娘 「でもさ、Aちゃんまた遅れてくるよ。どうしたらいいの。」
リョウ「いつもAちゃんは何分ぐらい遅れてくるの」
娘 「20分とか30分とか」
リョウ「なんで遅れるのって聞いたことある?」
娘 「”なんで時間通りいかなきゃいけんの?”とか言うんよ。」
リョウ「へーー!なかなかやね。こっちも30分遅れていくのは?」
娘 「やだーー」
リョウ「ちゃんと行ける時間をふたりで話し合ってから約束したら?」
ここでリョウさんが心がけたのは、大人の正しさや常識にしばられすぎなかったことです。子どもの世界のルールを模索しつつ、我が子とAちゃんが対等な関係でいられるように導いています。もちろん理不尽そのものを解決する力も必要ですが、人間関係においてはこんなパターンを身につけておくのもよいですね。
子育てシリーズしばらく続きます。
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- 中島美鈴(なかしま・みすず)臨床心理士
- 1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。