「敗因」から探る新聞の未来、縮小か大胆なDXか 外岡秀俊さん寄稿

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 2021年12月23日に急逝したジャーナリスト外岡秀俊さんはメディアの未来を案じ続け、1本の論考を残した。亡くなる1週間前まで推敲(すいこう)を重ねたそのタイトルは「『敗因』から探る新聞の未来/縮小か、大胆なDXで再生か」(月刊Journalism1月号掲載)。GAFAが情報空間の支配を広げる中、ジャーナリズムはどう活路を開くべきか……。過去の成功体験や、将来への悲観に引きずられぬ大胆な改革を求め、それでこそ「分断の時代に民主主義のインフラであり続けるだろう」とつづっている。21年10月、「メディアの未来を論じてほしい」という編集者(宮崎陽介)の執筆依頼に対し、「あまりに大きなテーマで、何を書けるか自信はありません」としていた。だが、論考は視座や切り込みに遠慮はなく、自省から説き起こす謙虚な筆致による問題提起だ。進行形の「今」を捉え続けた氏のメッセージをどう受けとめるか。

写真・図版
中原清一郎名義で発表した「カノン」が刊行された頃の外岡秀俊さん=2014年

外岡秀俊(そとおか・ひでとし)

1953年生まれ。東京大学在学中に石川啄木の足跡をたどった『北帰行』で文芸賞。朝日新聞ニューヨーク特派員、編集委員、ヨーロッパ総局長などを経て、東京本社編集局長。退職後、主に震災や沖縄について取材・執筆。著書に『アジアへ』(みすず書房)、『3・11 複合被災』(岩波新書)、『価値変容する世界』(朝日新聞出版)など。

寄稿 外岡秀俊さん(Journalism1月号掲載)

 日本の新聞の総発行部数は、いつがピークだったのか。覚えている人は少ないだろう。

 日本新聞協会の統計によると、正解は1997年の5376万部だ。2020年に総部数は3509万部になったので、この23年間に1867万部が減ったことになる。

 だがもう少し詳しくみると、2010年ごろまでは5千万部前後に踏みとどまっていた。急落したのは11年から18年にかけてで、わずか7年間に850万部を失った。その間に何が起きたのだろう。

 総務省の情報通信白書は2017年版の本文冒頭に「データ主導経済と社会変革」を掲げ、スマートフォンの個人保有率が2011年の14・6%から16年の56・8%まで、5年間に4倍になったことを指摘した。スマホの「爆発的普及」である。

 新聞の部数の長期低落を、インターネットの台頭と結びつける人は多い。実際、阪神・淡路大震災でその威力が知られ、利用者が急増したために「インターネット元年」と呼ばれたのが1995年。翌年にはマイクロソフト社のウィンドウズ95が「インターネット・エクスプローラー」を標準装備したから、97年をピークに部数減が続いたことと辻褄(つじつま)が合う。だがそれだけでは、急激な部数落ち込みは説明できない。ネットがスマホに移行し、「いつでも・どこでも・誰とでも」つながる情報環境が出現し、SNSが普及したことで生活スタイル、コミュニケーションの在り方が決定的に変わったのである。

 羊頭狗肉(ようとうくにく)の感があるが、これから私が書こうと思うのは「メディアの未来」予測ではない。『5000日後の世界』(PHP新書)でケヴィン・ケリーがいうように、それは「すべてがAIに接続されたミラーワールド」になるのか。それとも『メディアの未来』(プレジデント社)でジャック・アタリが予言するような「現実とヴァーチャルの融合」、さらには脳と脳を直接結びつける思考伝達回路なのか。激しい批判を受けてこのほどフェイスブックが社名を「メタ」に改めたのは、スマホのSNSに代わって仮想空間を共有する新たなメディア「メタバース」に向けた第一歩なのだろう。

 だが、その登場以前にネットやスマホ、SNSの台頭を予感すらできなかった私が、将来のテクノロジーを予見できるはずもない。

 私が書こうと思うのは、なぜ既成メディア、とりわけ新聞が激変する情報環境に適応できなかったのか、その失敗についてだ。勝因には好機や偶発的な要素が絡み、成功体験はむしろ、過度な自信や錯覚となって将来に過誤をもたらす。敗因にこそ、不確実な未来への指針が隠されていると思うからだ。

世界十傑に日本6紙 「軟着陸できる」甘かった見極め

新聞の生命線であるコンテンツをバラまいてアクセスを稼ぐ手法。プラットフォーム企業の確立。スマートフォンの爆発的な普及――。さまざまな敗因を指摘しながらも、外岡さんは、新聞は「生き残りをかけて必死に活路を見いだそうとする異業種の挑戦に目を向け、学ぶべきだろう」と指摘します。縮小均衡を続けるか、大胆なDXでメディア産業として再生するか。記事後半で論じます。

 英国に滞在していた2002…

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