久原本家の職人が語る「神様の領域」 和食を支えるこうじの奥深さ

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女屋泰之
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 「こうじ」は和食の調味料に欠かせない。みそやしょうゆなど発酵食品の味をかたちづくっている。だしパックなどを展開する総合調味料メーカー「久原本家グループ」(福岡県)の水越豊久さん(65)は、その世界を「神様の領域」と表現する。この世界に入って半世紀。2万回以上の試作を重ねた職人が語る、こうじの奥深さとは。

 味噌(みそ)や醬油(しょうゆ)のもとになる「こうじ」を仕込む。ときどき、こうじ菌にわざと、いじわるをすることがあるという。

 蒸した米にこうじ菌の粉末を振りかけて1日待つ。いつもより室温を上げて米の水分を飛ばした。菌が定着しにくいはずだ。

 木枠に入った米を両手ですくい上げる。白い菌が米に広がっている。ちゃんと米こうじになりそうだ。「言うことを聞かない子もいるかと思ったんですが」とほほえむ。新たな味噌がここから生まれる。

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社内で「こうじ博士」と呼ばれる水越豊久さん。味噌や醬油の仕込みの成否は、においを嗅げばたいがい分かるという=福岡県久山町、金子淳撮影

 こうじは使う菌の種類、温度、湿度によって風味が大きく変わり、昔から日本人を魅了してきた。これまでこうじを2万回以上試作し、調味料の開発につなげた。

 味噌づくりが家業で、幼いころからおけの中で遊んで育った。中学生の時から父を手伝い、大学卒業後すぐに兵庫県の醸造元で修業を始めた。

 駆け出し時代に大きな失敗をした。朝起きると、仕込み中の味噌からいつもと違う「重いにおい」を感じた。気づいた社長は「使えへんわ」。1トンの味噌を捨てた。

 下準備で米を水に浸したとき、水を抜くタイミングが早すぎた。前と同じ手順で仕込んだはずなのに。マニュアル通りに進めてもこうじは育たない。個性に応じて水に浸す時間や室温を変える必要がある。「いい子もやんちゃ坊主もいる。こうじに好かれるように試行錯誤することが大事です」

 修業から何十年もたったころ、取引先の人に言われた言葉が最も腹に落ちた。

 「こうじは神様の領域だ。人…

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