岸田政権は介護や保育、看護、障害福祉の分野で働く人の賃金を3%程度引き上げる方針を掲げています。看護職は新型コロナウイルスに対応する医療機関などの勤務者が対象ですが、待遇の低さや過酷な現場の見直しにつながるのでしょうか。今回は特別編の2回目として、看護職場の環境改善に取り組む団体「看護未来塾」のメンバー4人に今後の課題を聞きました。
――政権が掲げた賃上げをどう受け止めましたか。
井上智子さん(塾世話人・国立看護大学校長)「看護や介護などのケアワーカーの処遇に光が当たったことには感謝ですが、何%引き上げるからOK、というわけではありません」
「(看護職員の9割を占める)女性ゆえに歴史的に賃金水準が低く留め置かれていることや、最近のコロナ対応を含めて仕事が正当に評価されているのかどうか、賃金に影響する診療報酬のあり方など、構造的な課題は残ったままです」
――職種別平均賃金(2020年、月額)で看護師は39・4万円。全産業の35・2万円を上回ります。このデータをどうみるべきでしょうか。
川嶋みどりさん(塾世話人・日本赤十字看護大学看護学部名誉教授)「看護師は仕事の性質から夜勤は当然とされている一方、夜勤をしない人もいます。しかしこの平均賃金には夜勤手当が月3万円近く入っています。こうした詳しい補正をせずに、全産業平均と比較するのは適切ではありません」
「軽い地位」とみられているなら残念
――年齢層別にみると、看護師では20代は高いものの、30代後半から50代後半までは全産業を下回り、あまり伸びていきません。
川嶋さん「若い看護師を多く雇うのは医療機関の経営上メリットですし、夜勤要員確保のためでもあると思います。圧倒的に女性が多く、産休や育休などからの復帰後の賃金も上がりにくい」
「人事院が決め、国家公務員の看護職員に適用される『医療職俸給表(三)』は医療刑務所など直接適用される人は約1800人ですが、民間病院の看護師の賃金でも参考にされています。ただ、役職などのポストが少ないため、ベテランの多くが新人と同じ等級で評価され、伸びはゆるやかです。長い間改善しない男女の賃金格差の影響も色濃く、こうした構造のままでは根本的に改善しません」
――仕事が正当に評価されていない例としては、どんなものがありますか。
南裕子さん(塾世話人代表・…