立ち止まってもやり直せるよ コッペパンやに流れるゆったりした時間

松尾慈子
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 ひきこもりの若者たちが働く場として近江鉄道日野駅前に開店した「やさしいコッペパンやさん」(滋賀県日野町内池)が、人気を集めている。生きづらさを抱える人たちを支援する日野のNPO法人「スープル」が開設し、当事者が接客や調理にあたる。「自分のペースで仕事ができる。調理での試行錯誤も楽しい」と自信を取り戻すきっかけになっている。

 「いらっしゃいませ」

 代表の坂原美津子さんが出迎えると、女性客は「こんにちはー。ゆっくりでいいからね。全種類を1個ずつね」と笑顔で答えた。坂原さんが奥のキッチンへ注文を伝えると、店員の男性が慣れた手つきでパンに切り込みをいれ、卵やあんことバターなどを次々と入れていった。

 働くのは、かなり久しぶりという男性。「昔は工場で働いていたが、調理は初めて。パンの具材を詰める作業は自分のペースでできるし、やり方を試行錯誤するのも楽しい」と喜ぶ。

 坂原さんは精神保健福祉士として、精神疾患などに悩む人たちと接してきた。2010年にNPO法人を設立。こども食堂やひきこもりの女性のための女子会などを開いている。

 ひきこもりの若者が作ったコッペパンをこども食堂で提供したところ、おいしいと評判になった。天然の酵母で時間をかけて発酵させるのがおいしさの秘密だ。働く練習の場が欲しいという声が若者から出た時、これだと思った。

「8時間働かないと」頑張りすぎて

 町のにぎわいになると地域が協力してくれ、駅前の店舗兼住宅を借りることができた。改装費用はクラウドファンディングで集め、157人から約200万円が寄せられた。2020年5月にオープンした。

 若者たちは接客や調理を担当するが、働いた経験がない人も多い。坂原さんによると、働く力はあるが、がんばりすぎてしまう人が多い。「8時間働かないと」とふんばって調子を崩したり、人とうまく仕事を分担できなかったりするという。

 やさしいコッペパンやさんでは働き方はそれぞれで、半日だけの人もいる。その人が今できることをやるスタンスだ。仲間と支え合い、成功体験を通じて自信や意欲を取り戻せる場、立ち止まった人たちに「やり直せるんだよ」と伝えられる場を目指している。

 現在、店員として登録しているのは町内外の42人に上る。坂原さんは「時々お待たせすることもあるが、『がんばってや』と言ってもらえる。地域の人が応援してくれているのがうれしい」と話す。

 パンは260円~330円。ドリンクもあり、イートインコーナーで食べることもできる。営業は金曜と土曜の午前11時~午後5時。問い合わせはやさしいコッペパンやさん(0748・26・2051)。(松尾慈子)

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