人を動かすのは利他的なメッセージだった 経済学者・大竹文雄さん

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聞き手 編集委員・塩倉裕
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 人は利己的な生き物なのか、利他的な生き物なのか。繰り返し議論されてきたこの問いに、行動経済学の視点から新たな光を当てている研究者がいる。経済学者の大竹文雄大阪大学特任教授だ。コロナ対策では政府の専門家会議に参加し、どういう政策が効果的であるのかも提言してきた。利他的なメッセージと利己的なメッセージ、人を動かすのはどちらなのか。

 ――コロナ禍が始まって以降、行動経済学の手法で様々な実証調査をしていますね。

 「ええ。今回のコロナ禍ではまず、どうすれば人々の行動変容を促せるかが課題になりました。私たちのチームは2020年の春から夏にかけ、どういうメッセージを出すと有効かを行動経済学の手法で研究しています。20~69歳の4241人を対象にオンラインで調査しました」

 「数種類の異なるメッセージを送ったうえで、その人たちのその後の行動を追跡しました。『3密を避けるとあなたの命を守れます』という利己的なメッセージや、『身近な人の命を守れます』という利他的なメッセージなどです。その結果、行動変容に最も効果的だったのは、身近な人の命を守れますという利他的なメッセージでした。他方、利己的なそれには全く効果がありませんでした」

 ――普通に考えると、自分の命を守れるという利己的なメッセージが効果的なのだろうと思えます。なぜ、そうならなかったのでしょう。

 「私は次の三つの可能性を推測しています。一つ目は、人々が自信過剰である可能性です。『自分は感染しない』と考えているため、そもそも対策の必要性を感じていない。だから、あなたの命を守れますという利己的なメッセージに触れても行動が変わらない。経済学で言う『楽観バイアス』の状態です。ただしそうした人たちも、利他的なメッセージを投げかけられれば、『自分自身は大丈夫だけれど周りの人はそうでないかもしれないから、守ってあげなければいけない』と考える可能性はあるのです」

 「二つ目は、人はそもそも利他的な存在であるから利他的な呼びかけに応じようとする、という可能性です」

 「私が最も注目するのは、次の三つ目です。それは『社会的イメージ』の問題がひそんでいるという可能性です」

 ――社会的イメージとは何ですか。

 「行動経済学の世界には、人は自身の社会的イメージが損なわれないような行動を採る、とする学説があります。近年いろいろな場面で語られるようになった説です」

 「他人の命を守れますといっ…

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    奥山晶二郎
    (サムライトCCO=メディア)
    2022年1月12日19時3分 投稿

    【視点】大竹文雄さんが紹介している「お金をあげると逆にワクチンを接種しなくなる」という研究。 人の行動は「周りからどう見られるか」に左右されやすい現れであると説いています。 SNSで相手の主張を否定する、いわゆる〝論破〟と言われる行為も