名古屋VS福岡VS広島 来年のG7サミット誘致合戦が号砲

関謙次 松沢拓樹 大久保貴裕
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 2023年に日本で予定される主要7カ国首脳会議(G7サミット)の開催地に名古屋、福岡、広島が名乗りを上げた。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大が続き、サミットの先行きも見通せないなか、3都市とも国際的な知名度の向上や経済効果に期待を寄せ、アピール合戦は早くも熱を帯びている。政府は今年6月のドイツでのサミット前には開催地を決める方針だ。近年の開催地は時の首相の一存で決まっており、岸田政権の判断が注目される。

名古屋 一番に名乗りも、本音は「閣僚会合かも」

 G7サミット開催地に最初に名乗りを上げたのは名古屋市だ。20年12月に市議会で意向を表明した。愛知県などと官民一体で誘致をめざす推進協議会が昨年12月9日に設立され、河村たかし市長が会長に就いた。

 河村氏は昨年11月の記者会見で「国際的知名度や都市ブランドが上がるための大きなチャンス。コロナ禍で落ち込んだ地域経済を復興させる起爆剤になる」と誘致のねらいを説明した。

 市が昨年末に外務省に提出した誘致計画案では、首脳会議の会場は熱田区名古屋国際会議場、国内外の記者が集まる国際メディアセンターは港区の市国際展示場を想定している。

 関係閣僚会合では、会場を中区の名古屋観光ホテル、国際メディアセンターは同区のヒルトン名古屋を候補とした。

 名古屋市は16年のG7サミット開催地にも応募したが、決まったのは三重県・伊勢志摩だった。19年の主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)では愛知県が立候補したが、大阪市に敗れた。

 名古屋市はリベンジをかけ、地元の産業や技術力、「名古屋めし」などの観光資源といった魅力の発信につなげたい考えだ。

 ただ、市内部では早くも「首脳会議は無理だろう。本命は関係閣僚会合の誘致だ」との声も聞かれる。前回の16年が隣県・三重だったためだ。幹部は「同じ東海地方は選ばれにくいのでは」。

 近年のサミットは伊勢志摩や19年の仏ビアリッツ、21年の英コーンウォールなど地方のリゾート地が選ばれることが多い。幹部は「名古屋にふさわしい場所はない」。岸田文雄首相の地元・広島が有力なライバルになるとみる。

 名古屋市のもう一つの課題は県との連携だ。愛知県の大村秀章知事は推進協の顧問に就いたものの、設立総会には出席しなかった。

 昨年、大村氏への解職請求リコール)の署名活動を河村氏が支援するなどし、両氏の関係は完全に冷え切っている。「県と市の職員の関係まで険悪になりがちだ」(市幹部)として、県と市トップの確執が足並みの乱れにつながることを危惧する声もあがる。

 それでも名古屋市が率先して手を挙げた理由について、別の幹部は「市が主導して大きな国際会議を誘致したのは10年の生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)が恐らく最後で、以降は県主導の誘致活動に協力する形となっていた」と指摘。そのうえで「市は政令指定都市としてきちんと力をつけ、地域の先頭に立つ意志を示す必要がある。誘致活動を通じて市職員が力をつけることがねらいだ」と話す。

 県との関係については「トップ同士がうまくいかなくても、職員は落としどころを見つけて一緒に仕事している。県と市がけんかしていては他の地域との競争に勝てない」。協議会の事務局を務める市によると、サミット誘致については市と県の担当者間で連絡を密に取り、協調しているという。(関謙次)

福岡 弱点の高級ホテル不足「克服」、リベンジに熱気

 福岡市福岡県は昨年10月にG7サミットの誘致を表明した。「G20サミットを大阪に取られた悔しい思いが残っている。リベンジしたい」。福岡市内で開かれた記者会見で、高島宗一郎市長は、服部誠太郎知事や九州経済連合会の倉富純男会長(西日本鉄道会長)と並んで声を上げた。今月14日にそろって首相官邸を訪れ、「アジアと世界をつなぐ日本の役割を国際社会に強くアピールできる」などと岸田首相に「誘致」を直談判した。

 大阪、愛知と争った19年のG20サミットは当初、福岡市が最有力と目されたが、土壇場で大阪に苦杯を喫し、財務相・中央銀行総裁会議の開催にとどまった。

 海外の要人が宿泊できる高級ホテルの不足がネックになったとされる。

 弱点解消に向けて福岡市が期待を寄せるのが、市中心部の再開発「天神ビッグバン」だ。高さや容積率の緩和で高層ビルの建設ラッシュが起きており、23年春には外資系高級ホテルのザ・リッツ・カールトンが開業を予定する。

 市は、ほかの高級ホテルと合わせて計3万2千室の確保を見込み、G7開催の要件は満たせるとみる。福岡空港から中心部まで車で約10分というアクセスの良さも要人警護の観点から強みだとアピールしている。

 高島市長は今年1月7日の記者会見で「前回はスイートルームの数で指摘を受けたが、こうした部分はアップデートできている。交通アクセスはトップレベルの評価を受けている」と自信をのぞかせた。

 G20誘致時は福岡市単独での手挙げだったが、今回は福岡県と九州経済連合会も合同で誘致活動を進める。各国首脳の配偶者らによる社交行事「配偶者プログラム」などで、県内各地の名所や施設の活用も見込んでいる。市の担当者は「条件はそろっている。事務的には他の2都市に劣る要素はない」。

 市と県は昨年末に誘致計画を外務省に提出した。詳細な内容は非公表だが、関係者によると、首脳会議の会場は、G20財務相・中央銀行総裁会議でも主会場だったホテル「ヒルトン福岡シーホーク」(中央区)、取材拠点のメディアセンターは隣接する「福岡ペイペイドーム」を想定する。過去の国際会議や国際スポーツ大会の開催実績、アジア各国とのつながりも含めて「福岡が最適な場」と一歩も引かない構えだ。

 福岡が最も警戒する相手もやはり広島だ。福岡市の高島市長は昨年12月7日の記者会見で「岸田首相のおひざもと。一番のライバル」と明言した。そのうえで「決定する首相の思いも心の中にあるだろうが、広島に決める大義をどこに持って行くのか」と牽制(けんせい)した。

 今年1月7日の会見でも「年も明けたので、あとは表に裏に色々な形での駆け引きがこれから始まるのかなと思っている」と語った。(松沢拓樹)

広島 政権おひざ元で「本命視」、被爆地ならではの弱みも

 広島市広島県とサミット誘致を正式表明したのは昨年11月。3都市で最も遅かったが、地元では早くも「本命」との見方が広がる。決定権をもつのが地元選出の岸田首相だからだ。

 当の首相も12月の参院予算委員会で「世界の政治指導者に原爆の実相に触れてもらうことは大変重要だ」と語り、広島開催への意欲をにじませた。

 「来年6月までに適切に判断したい」とも述べてほかの都市への配慮もみせたが、長らく地元で首相を支えてきた中本隆志・広島県議会議長は心境をこう読み解く。「話が出た瞬間から広島に誘致したいとの思いは強くもっておられる」

 広島は00年、16年のサミット開催にも名乗りを上げたが、00年は沖縄、16年は伊勢志摩に敗れた。

 被爆地を選挙区にもつ岸田氏は「核兵器のない世界」をライフワークに掲げる。外相時代には16年のG7外相会合や米オバマ大統領の広島訪問を実現させたこともあり、別のベテラン広島県議は「岸田政権のレガシー(遺産)になる。さすがに今回のレースは負けんじゃろ」と余裕の表情だ。

 年明けからは広島の財界人らと協力しながら政府への要望活動を展開する方針で、地元から30年ぶりに誕生した首相の存在を「切り札」として、過去2回の誘致レースで敗れた雪辱を果たす狙いだ。

 ただ、広島には被爆地ゆえの懸念材料もある。

 核保有国の米英仏がG7メンバーで、特に広島へ原爆を投下した米国は、オバマ大統領が広島を訪れた際も、国内世論に「謝罪」ととられないよう細心の注意を払った。地元選出の国会議員は「広島開催に難色を示す国も出るかも。事前の水面下での外交交渉がかぎをにぎるだろう」とみる。

 名古屋、福岡と比べた都市規模の小ささも弱点だ。広島市は16年のG7外相会合が開かれたグランドプリンスホテル広島(南区)を主会場に、原爆ドームに近い広島国際会議場(中区)をメディアセンターにする方針だが、市内にほかに高級ホテルは少ない。日本政府観光局の調査でも、コロナ禍直前の19年に開かれた国際会議数は福岡4位、名古屋6位だったのに対し、広島は12位で大きく離されている。

 広島では22年に外資系高級ホテルのヒルトンホテルの開業が見込まれる。松井一実広島市長は昨年11月の記者会見で、要人を受け入れる態勢について「客観的に見ていただけるはずだ」と胸を張ったものの、敗れた過去2回からの具体的な改善点を問われるとあいまいな答えに終始した。(大久保貴裕)

サミット開催地どう決まる 注目は「政治判断」

 先進国の首脳が集うサミットは、石油危機などを契機に1975年にフランスのランブイエで初めて開かれた。ロシアを加えたG8の枠組みで開かれた時期もあったが、ウクライナ情勢の悪化などにより14年からは7カ国で続けられている。

 20年は米国で開催予定だったが、コロナ禍のため対面での首脳会議は開かれなかった。昨年は英コーンウォールで開催され、終了後に周辺地域のコロナ感染者が増えたと指摘されて物議を醸したが、英政府はサミットとの関係を否定した。

 サミットの開催は各国の回り持ちだ。近年はテロやサミットへの国際的な抗議活動への警備のしやすさから、リゾート地や地方都市での開催が多い。

 日本は過去6回のうち3回が東京開催だったが、2000年以降はいずれも地方で、沖縄、洞爺湖(北海道)、伊勢志摩(三重)で開かれた。

 名古屋、福岡、広島の3市はいずれも日本では大都市に位置づけられるが、国際的競争力が高いとはいいがたい。世界各都市の国際会議の開催状況をまとめている国際会議協会(ICCA)によると、コロナ禍前の19年に国際会議が開かれた件数は、福岡が世界108位、名古屋が159位、広島が210位だった。

 サミットの開催地選定では、外務省が事前に、国際会議場や賓客を受け入れる高級ホテルの充実度、警備態勢、交通アクセスなどをチェックする。最終的には時の首相の意向が大きく反映される。

 08年の洞爺湖サミットの際、政府は決定当時の首相だった安倍晋三氏の著書名に通じる「『美しい国日本』のイメージに合致」などを挙げ、「首相が総合的に判断した」との答弁書を閣議決定している。

 安倍氏は16年の「伊勢志摩」も選んだ。当時、「日本の精神性に触れていただくには大変よい場所」と語っていた。

 00年の沖縄開催を決めた小渕恵三首相は出身派閥が歴史的に沖縄を重視してきた経緯があった。小渕氏は00年5月に死去し、サミットには出席できなかった。

 3都市は経済効果にも期待を寄せる。三重県によると、16年の伊勢志摩サミットでは直接的な経済効果が1070億円、国内外のメディアに取り上げられたことによるパブリシティー効果が3098億円あったという。

 一方、北海道経済連合会の試算では、08年の洞爺湖サミットの直接的な経済効果は約350億円、開催後5年間の経済効果は約280億円だった。