復興基金 使い残し57億円返還へ 県内分1400億円
独自の震災復興事業にあてるため、宮城県内の各自治体につくられた「復興基金」について、使い残した約57億円が国・県に返還される見通しとなった。原資となった国の特別交付税は宮城県向けに約1370億円が配られた。国の支援メニューから外れた多種多様な施策にあてられてきた。
阪神・淡路大震災や中越地震の後も国や自治体の拠出で復興基金がつくられ、運用益が様々な事業に使われた。東日本大震災は超低金利下だったため、初めて取り崩し型に。2011年と13年の2回にわたって国が措置した特別交付税は、被災地全体で総額約3千億円に上る。
返還の対象となるのは、津波で被災した住宅の再建支援用だった第2次基金。被災規模に応じて県内15市町に計728億円が配分された(県が19億円を上乗せ)。防災集団移転対象外となった人への補助や、宅地のかさ上げ補助などを自治体がそれぞれ考えて支給。申請がどれだけあるか予測が難しく、「使い切り」に苦心した自治体もあった。
復興期間の区切りとなる20年度末で余った分は国庫に返す決まりだったが、石巻市と気仙沼市は住宅再建が遅れているとして、1年間の延長が認められた。
県市町村課によると、仙台市など5市町は全額使い切ったが、亘理町12億5千万円、名取市11億1千万円など10億円以上余った所が5市町ある。石巻市は、被災地最多の319億円が交付され、21年度末でも15億6千万円が残る見込みで、もう1年の延長を総務省と協議中だ。
石巻、気仙沼両市を除く13市町の不用額56億8千万円が近く県に返され、県拠出分を差し引いた37億8千万円について、来年度以降に国と精算手続きをとるという。2市分の返還・精算はその後になる。
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第1次分は、様々な事業に使える一般的な復興基金だ。宮城県には660億円が交付され、県は半額の330億円を全35市町村に配分。各自治体は、寄付金などと合わせて基金にした。
使い道は▽復興に関する広報誌発行▽被災者の交流拠点づくり▽追悼式費用▽防災ラジオ配布▽観光振興策▽防災教育の副読本づくりなどと幅広い。県も復興基金を設け、私立学校や特養ホームの復旧補助、農林水産業者やグループ補助を組めなかった中小企業への支援などにあててきた。
こちらは国に返さなくていい。県によると、市町村に配られた330億円は16億円を残すばかりで、20近い自治体が交付分を既に使いきった。復興基金は使途の自由度が高く、「公助」を補完する一歩踏み込んだ支援に役だったといえる。
だが前例と比べると、課題も浮かぶ。青田良介・兵庫県立大教授は「阪神や中越地震では財団法人が運用を担い、支援者や専門家の視点で新たなニーズを掘り起こし、基金の事業につなげていた。東日本では行政予算に組み込まれたことで、本来は公費で対応可能なものにも使われた」と指摘する。
「東北の被災地でも在宅被災者の問題などを民間団体が掘り起こしている。ハード整備が一段落し、共助による支援が続く中、長期のニーズに応えるため、復興基金をあらためて拡充してはどうか」と話す。(編集委員・石橋英昭)
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