ウォシュレットの後が続かない…新井紀子教授が語る日本のコトづくり

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新井紀子のメディア私評

 先日、小学5年生の社会科の出前授業をした。テーマは「日本の工業生産の特色」。教科書には工業種類別生産額の割合の変化といった帯グラフが並ぶ。

新井紀子(あらい・のりこ)さん 1962年生まれ。国立情報学研究所教授。読解力測定のためのテストを実施する「教育のための科学研究所」所長。

 5年生は百分率(パーセント)を学ぶ学年でもある。覚えたての知識を活用して、グラフや地図を読み解き、「繊維工業から機械工業に中心を移しながら、日本の工業は第2次大戦後、飛躍的に発展した。日本の工業生産は圧倒的に多い中小工場と、数は少ないが生産額が多い大工場で支えられており、その多くは太平洋ベルトに集まっている」というまとめに至る。日本を支える自動車産業やオンリーワンの製品を生み出す中小工場の技術など「世界に誇る日本のモノづくり」を学ぶ単元の導入部分だ。

 授業準備のさなかに、東芝の事実上の「解体」のニュースが飛び込んできた(朝日新聞11月13日)。冷蔵庫や洗濯機など多くの家電製品の国産化第1号を誇り、日曜日のテレビアニメ「サザエさん」のスポンサーだったことから子どもたちにもおなじみだ。その東芝の解体の報に、「モノづくり大国日本」の黄昏(たそがれ)を改めて実感した日本人は少なくないだろう。

 教科書には各工業の主な製品がイラストで掲載されている。パソコン、洗濯機、電子レンジ、自動車など機械工業製品のうち、いま日本がシェアを誇るのは自動車のみだ。だが、国連気候変動枠組み条約の中で、日本車の立場は危うい。国内でさえ「自動車をもって一人前」の価値観が崩れ、免許を持たない若者が増えている。

 「労働力が安い海外にシェアを奪われたこと」が日本工業凋落(ちょうらく)の原因とされることが多い。しかし、東洋経済オンラインの記事(https://toyokeizai.net/articles/-/458676別ウインドウで開きます)によれば、2020年の日本の平均賃金はアメリカの約半分。経済協力開発機構(OECD)加盟国の中で日本より平均賃金が低い国は、旧社会主義国やチリ、メキシコ、そして財政不安の中にあるイタリアスペインギリシャくらい。賃金の高さはもはや理由にはならない。

 日本はモノづくりには成功したが「コトづくり」に失敗したとの声も多い。物質的な豊かさから、生活体験の豊かさや多様性を求める人々にとって、高性能でも画一的な日本製品は魅力的に映らないとの指摘だ。確かに、日本企業の研究所や工場を視察すると、世界に誇る高性能の技術が多い一方で、これまでまったく見たことも聞いたこともない、今すぐ私も欲しいと思うようなモノやサービスにはなかなか出会わない。

 そんなとき、ふと一本のテレビCMを思い出した。

 1982年に放送された、T…

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