災害ボランティアが縁、地ビール造り 最初の1本「天国の2人に」

能登智彦
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 2018年の西日本豪雨で被災した広島県呉市安浦町の市原集落で、災害ボランティアが縁で移住した若者によるクラフトビールの醸造所が完成した。「市原(いちばら)」から名付けた「IB BREWING」。15日に被災者らを招いて開所式を行う。

 取り組むのは、昨年7月に親友と市原集落に移住した横浜市出身の西原総司さん(22)。安浦町一帯は豪雨災害で4人が死亡、991の建物が被害に遭った。西原さんは直後に市原集落にボランティアで駆け付け、土砂やがれきの撤去にあたった。

 西原さんは、離れてからも集会に顔を出すなどして地元と交流。人々の温かさと豊かな自然に魅了され、以前から抱いてきたビール醸造を手がける夢を被災地で実現できないかと考えた。ベトナムのビール醸造会社で働いた経験がある親友の藤戸淳平さん(24)に協力を求め、20年にクラフトビールの会社を設立。金融機関の融資やクラウドファンディングなどで約1千万円を集めて委託製造を始める一方、集落に2人で移住し、自社工場の場所として借りた築約70年の民家を改修。昨年、醸造タンクや瓶詰め装置の設置までこぎつけた。

 醸造所の建物は豪雨で犠牲になった加川和見さん(当時66)の自宅。消防団員だった加川さんは近所で活動中に土石流に流された。また、移住先も同様に犠牲になった高取良治さん(当時67)の自宅だ。両遺族は集落復興の願いも込めて快く自宅を貸し出し、若者の奮闘を見守る。被災後に集落の人口は半減したが、2人の日々の暮らしのため、地域住民も米や野菜を提供し、改修作業の手伝いを買って出ている。

 醸造するクラフトビールは、ヒマワリの種やハチミツを使った2種類で、最終準備を終え次第、製造を始める。330ミリリットル入りの瓶(税抜き650円)で毎月約2400本を出荷し、醸造所でもできたてを楽しんでもらう。地元の手作りソーセージなども提供する。近くに車中泊可能の駐車場も設けた。

 西原さんは、集落でつくる最初の1本を加川さんと高取さんの霊前に供えると決めている。「天国の2人、復興を頑張る地域の人たち、そして全国に長く愛される品をつくり続けなければと思う。コロナ禍の困難もあるがようやくここまで来た」と話す。(能登智彦)