「木川信子を知りません?」SNSに突然… 教授が映画をつくるまで

下地達也
[PR]

 和歌山大学観光学部の木川剛志教授(45)が監督を務めたドキュメンタリー作品「Yokosuka1953」が、昨年12月に東京都新宿区であった「東京ドキュメンタリー映画祭」の長編部門でグランプリに選ばれた。木川教授は「すばらしい作品ばかりだった。その中から選ばれたことがうれしい」と話している。

 木川教授の作品は、太平洋戦争後の1953年、米兵の養女となって海を渡ったバーバラ・マウントキャッスルさん(74)=日本名・木川洋子=が、同姓の木川教授と偶然出会い、記憶の中の母・信子さんの足跡をたどっていく、昨年完成した106分の長編ドキュメンタリー。

 物語は、バーバラさんの長女がSNSで「木川」と検索し、偶然見つけた木川教授に「木川信子という女性を知りませんか?」とメッセージを送ったことから始まる。

 木川教授は縁者ではなかったが、「母さがし」に協力する。終盤には、信子さんを知るひととの出会いや、思い浮かべることが出来なかった母の顔が写る写真がみつかったことを通し、バーバラさんが母をより近くに感じるようになっていく様子が描かれている。

 2020年にも同名の中編版(54分)を制作しているが、外国人との間に生まれた子どもたちに対する差別があった時代、そして差別や虐待を受けるなど過酷な境遇を生きてきたバーバラさんの人生の「生々しさ」は描けなかった。「家族でもない他人の自分に、表現する資格があるのか」との葛藤があったからだ。

 しかし、バーバラさんは「すべて描いてほしい」と言ってくれた。取材のなかで確かに感じた、バーバラさんと信子さんの間にあった「愛情」は、過酷な中にあっても「美しいもの」だった。だから、映画にしたいと思った。長編版では、制作者としての葛藤や、当時の過酷な時代背景も含めて描いた。

 木川教授は、「少しでも役に立てたら、と始めた母さがし。その気持ちに、周りから協力が集まった」と振り返る。また、教育者として「ひとを思う気持ちが世の中を変えることを学生たちに示せたことが大きい」といい、「映像教育を通して『自分にも世の中を変えることができる』という自信を学生に持ってもらいたい」と語った。(下地達也)